頑固の裏側
興味深い道徳の本を他校の司書さんから紹介してもらい、何かに使えないかと考え、11月の読書月間で、二週に渡って特別授業に用いた。一週目に本の半分を読み聞かせし、内容を簡略化したワークシートに其々が自分なりの回答を書き込むことで、個々の道徳観を引き出す。ワークシートは回収し、集約したものは匿名で、担任へ情報提供。翌週、本の残り半分の中から、子どもたちが気になった質問に対し、著名人の回答を紹介する…といった形式にした。子どもたちが面白がっただけでなく、先生方の評判も良く、成功した取り組みと言える。
内容のひとつに、LGBTの結婚についての記述があり、手が挙がったので、あるクラスの授業で回答。〝結婚〟という語彙が出た途端、3年男子が叫んだ。
「結婚なんか絶対せぇへん!だってお金めっちゃかかんねんで?お金勿体ない!絶対せぇへんわ!」
本質に迫る以前の大絶叫に目が点。途端に笑いが込み上げる。
「十年後にはお金かかっても結婚したいって思えるぐらい好きな人ができるかも知れへんやん!決断するには早すぎるで?」
笑いを噛み殺しながら大人の意見で応戦。しかし彼は頑なだった。
「いやや、絶対せぇへんから!お金の方が大事やもん!」
断固拒否する彼。早まり過ぎだ!と思いつつ、世の中には彼のような男子が増えているから晩婚化し、生涯未婚率も上がっているのでは…?とふと思う。
そういえば昔、私も思っていた。
『男の人って大変やな…』
結婚したら、男の人は家族を養うために、一生働かなければならない。仕事がどんなにしんどくても、辛くても、簡単に辞めることなど出来ない。そこまでして、結婚したいと思えるものなんだろうか…と。
一方で、女の人も大変。土日祝日関係なく、家事労働や子育てが責務となる。兼業主婦なんて、一体どうやって毎日仕事と家のことを両立しているのだろうか…と。
熱を出して寝込み、身動き出来ずにふぅふぅ言いながら思ったものだ。
『あぁ…子どもいなくて良かった』
実際、今はそんな時代ではないのかも知れない。ワンオペなんて言葉もあちこちで聞くが、それは問題視されているし、家事労働も子育ても〝みんなで〟する。男女関係なく仕事を持って稼ぎ手となる。夫婦片方に、生活すべての重心がかかる社会は、昔ほど一般的ではないのかも知れない。
よくよく考えてみると、「結婚が大変」と思うのにも、それぞれに理由がある。私は、仕事嫌いなくせに、家のことも子育ても一切しない父親を持ったせいで、母親が苦労しているのを間近に見て育った。結婚に対する憧れは実際あり、年を重ねても〝白馬の王子〟を夢見ている成長出来ない面も勿論あるのだが、自分が育った家庭のような結婚生活が普通なのであれば、結婚なんてする気はしないと心から思っている。
小学生は未だ結婚に夢を描いても良い年齢ではないかと思うのだが、結婚拒否を宣言する彼にも、それなりに事情があるのかも知れなかった。追及しなかったのは、そんな時間でもそんな場でもなかったからで、勿論、授業から大きく脱線するであろうことが予測出来たから。しかし一方で、機会と時間さえあれば、膝突き合わせるか、若しくは学級会さながらに、多種多様な意見を戦わせる議論として展開し、面白い意見交換の場を設けることが出来たのではないかとも思う。
ま…学校司書にそんな権限は無いんですけどね。