こわい夢(ウラジオ日記21)
夢を見た。
赤い民族衣装を着て黄色い仮面をつけた10人ほどの集団が前から歩いてくる。一人だけ白と灰色の衣装を着ていて、どうやらその集団の首領らしい。ぼくたちは車に乗っていて、通り過ぎようとするが彼らに囲まれて車を止めてしまう。右のドアが開けられぼくは引きずり出される。鍵を閉めなかったことを後悔する。首領が声を出す。日本語ではないのに何故か彼の言っていることが理解できる。「民族以外は屠殺しろ。」
こわくて目が覚めた。外はまだ少し暗い。段々慣れてくると、空の色や、街灯、空気の明るさで大体の時刻がつかめるようになってくる。時計を持たない故に物の見方が変わる。今はまだ5時くらい。もう一眠りしたいけれど、さっきの夢の続きは見たくない。とか考えてるうちにあっさり眠ってしまう。
目覚めると町に出かける。大通りに出るとちょうど来たバスに乗る。別に予定はないからどこに着いても構わない。段々耳が慣れてくる。バス停が近づくたびに「アスタノシュカ ~~」ってアナウンスが流れている。多分、「次は ~~」みたいな意味なのだろう。肝心の駅名が聞き取れないから意味ないけれど。
耳も目もウラジオストクに慣れてきていた。それでも不安は残っているのだろう。だからあんなこわい夢を見るのだ。本谷有希子の小説で、海外に行く話がある。友だちと一緒に白タクに乗ったら、どんどん暗い山中に入っていき何もないところで降ろされると、スコップを持った男に脅かされながら暗がりを進み最後たぶん殺されるなというところで終わる。あれめっちゃこわかったな。
「アスタノシュカ」。後で調べようとメモを探す。カバンを漁るとメモ帳はすぐにみつかったがペンが見つからない。すぐ物を失くす。それで買った頃に見つかったりする。あまりに多いから、気にすらしていない。なんにも覚えていない。忘れてしまう。(所謂、忘却の彼方(フォゲットザフォゲット)の能力者だ。)
思い出も何もかも忘れてしまう。嫌な記憶はすぐに忘れるけれど、楽しかった記憶もなくしてしまうから、かなしい。でも過去の思い出ばかりに縛られるのも性に合わないからいいのかもしれないけれど。でもこうやって思い出しながら書く日記は楽しい。何のエピソードも、人に話せる思い出も、ないような気がしていたけれど、案外書けている。忘れている気がしているだけで、ほんとうは全部覚えているのかもしれない。
バスを降りるとキオスクでペンを買った。ついでにライターも購入する。火を点けてみる。チャイルドロックがないから日本のライターよりも使いやすい。
今旅行中持ち歩いていたメモ帳を開くと青い字で「ペンを失くした。多分買った後に見つかるのだけれど。」と書いてある。それからそのすぐ下に黒い字でこう書いてある。「ほらあった。」
カネコアヤノの気分で歌う。
私はすぐにものをなくす
こないだもペンがどこかに行って
コンビニまで買いに行って
家に帰ってメモ帳ひらいて
線を引いたらとても細くて
すごく書きづらくって
なんだか悲しくなって
メモ帳ひらいて顔の上置いて
光を避ける
光を避ける
暗い部屋の中一人
ねむっている
朝目覚めると枕元に
昨日なくしたペンを見つけて
昨日あんなに探したのに
一体どこに隠れていたのか
なんだか悲しくなって
メモ帳ひらいて顔の上置いて
光を避ける
光を避ける
暗い部屋の中ひとり
ねむっている
ふたつのペンを
片手ににぎって
ふたつの線を
まっすぐにのばす
どこまで続くの
この線路は
片方の細い不恰好な
線路がつづく
光を避けて
光を避けて
暗い部屋の次はどこの
駅まで行くの
光を避ける
光を避ける
暗い部屋の中ひとりで
ねむっている
そんなにカネコアヤノっぽくないか。でも夢の不安は忘れていた。やっぱり私は忘れっぽい。
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