北朝鮮国営レストラン「平壌」(ウラジオ日記24)
そのお店は非常に入り口がわかりづらく、最初行ったときはたどり着けなかった。しかしウラジオストクに行ったら行こうと思っていた唯一のお店だったから、次の日意地でたどり着いた。北朝鮮の国営レストラン「平壌」である。
日本では中々味わえないだろう、北朝鮮を。韓国料理とはどう違うのだろうか?民族衣装を着た女性店員に注文すると Can you cash OK? と聞かれる。現金で払えるか聞かれているようだ。うなずくと喜ぶ。外貨を得るための国営レストランだから、現金のほうが喜ばれるのだろう。何か大きな背景を感じられて心がざわつく。あるいは現金ならポケットに入れられるからかもしれない。
お酒を見たが、北朝鮮のお酒はないみたいだった。Koreaと書かれているビールがある。North Korea?South Korea? 自然と韓国のことと思ってしまうが、北朝鮮からしたらコリアは韓国を指さないかもしれない。もしかしたら町で見かけるKorean restaurant も韓国料理屋ではないのかもしれない。ロシアは北朝鮮と国境を接していて、シベリア鉄道は北朝鮮まで延びている。金正恩がその電車に乗ってウラジオストクに来ていたし、アメリカ、日本から捉えたKorea の捉え方とは大きく違うかもしれない。それは世界地図が日本で見たら日本が真ん中にあって、ロシアで見たらロシアが真ん中にあること。日本海と呼ぶのは日本だけであること。それらと同じくらいのレベルで。
自分も自然と北朝鮮と言う呼称を使っている。タイトルにも迷いなく北朝鮮と書いてしまったけれど、あまりよくないのかもしれない。
でも結局ロシアのビールを注文した。よく見かける銘柄だが、まだ飲んでいなかったからだ。一緒にキムチが四種類出てくる。多分、大豆、大根、人参、キャベツ。これがめちゃくちゃうまい。今まで食べたキムチで一番うまい。
てっきりBGMはアリランとかモランボン楽団とかかと思っていたが、普通にロシアのポップスが流れている。妙に清潔な店内の壁には豊かな緑が描かれていて、その上に作り物の葉っぱがあしらわれている。
(歌謡曲と通じるものがある。)
しかし料理がうまい。おひょうの蒸し煮、めちゃくちゃうまい。おひょうという魚を知らなかったけれど、巨大なカレイみたいな魚らしい。回転寿司とかの安い縁側は大体この魚の縁側だそうだ。日本だと大味と言われあまり好まれないらしいのだが、食材に合った調理法というのがある。びびるくらいに美味い。英語だとHalibut。ハリブーというのは何となく聞いたことがあった。でも日本に帰ってきて、ハリブーと言っても誰にも通じない。おひょうと言ったら通じた。ぼくの認識は歪んでいる。
北朝鮮は料理の美味しい国なのだろうか。それともここが国営レストランだからだろうか。市民の舌にこれらの美味しい味覚は躍らないのだろうか。単に、ウラジオストクが港町だから、魚が新鮮というのもあるだろう。しかしキムチも、牛肉のスープもめちゃくちゃうまい。
BGMが止まる。何だろうと耳をすませていると、今度はテイラースウィフトが流れてきた。アメリカンポップス。しかも選曲は「Love Story」
サビでロミオ、ジュリエットと歌う。皮肉が利き過ぎではないか。ロシアポップスからアメリカポップスへ。北と南に分かれたどこかの二人に重ねるようにロミオ、ジュリエットが響く。
テイラーが終わると、古いインスト曲が流れてくる。恐らくKoreaの。それはもしかしたら分断される前の曲だったのかもしれない。
遠い国の話みたいに喋ってしまうけれど、そもそも日本が統治したのがきっかけで、大戦後アメリカとロシアに分断されているのだから、ものすごく近い話だ。(ざっくり言いすぎかもしれないけど。)
北朝鮮まではシベリア鉄道の線路が続いているから、電車を一度乗り継げばウラジオストクから行くことができる。少し気になって日本で席を調べたら、国境を越えて平壌まで行ける切符があった。しかし帰りの切符が見つからない。北朝鮮からもロシア側の国境の町からも、ウラジオストクに戻る切符がない。労働者たちがロシアに流れ込んでいるのだろうか?国境に興味があったが、戻れないのはこわいからやめた。でも一度北朝鮮には行ってみたい。