人形劇場(ウラジオ日記25)

ウラジオストク最後の日曜日は祭が開かれていた。子どもたちがトラのフェイスペイントをして町を歩いている。トラはウラジオストクのシンボルらしい。中央広場ではライブが行われていて、露店が並んでいる。

一昨日の夜もそのステージで音のチェックが行われていて、ずいぶん気が早いなと思った。夜中に音を出せる国はいい。魅力的な音楽が流れてくることはなかったけれど。

ロシアで耳に入ってくるヒットチャートはどれもアメリカの二番煎じという感じだ。つまらない。でも海外から日本に来ても、そう感じるかもしれない。ヒットチャートでその国の音楽を知った気にはなれない。

人形劇を見に行く。ロシアは人形劇も有名だ。オペラバレエサーカス人形劇。劇場文化が町を彩る。人形劇場の前には小さな公園があって、園内をぐるりと囲うようにここでも小さなフリーマーケットが開かれている。真ん中では子どもたちの出し物が行われていて、司会の青年が紹介するとトラの格好をした少年少女が中央に集まりダンスを踊っている。見物している大人たちがうれしそうにカメラを向けている。演目が終わるとさっきの青年が出てきて、次の演目を紹介している。端には妖精みたいな格好をした少年少女が控えている。次もダンスかなと見ていると音楽が流れだす。中々呼び込まないなと思っていたら青年が歌いだす。いや、お前が歌うんかい。

フリーマーケットを冷やかしていると、ひとつ目を引く店がある。そこには額縁に収められた絵画があって、でもそれはよく見ると絵ではない。樹皮だ。樹皮の模様を絵のように見えるところで四角く切り取って、額縁に収めただけ。それがあんなに豊かな表情を見せている。自然がつくる、影と光、凹凸、日焼け、色合いが思惑通りに塗り重ねられた絵の具よりも豊かな何かを語っている。それはただの木肌なのだけれど、大河が映っていたり、雪が降っていたりする。森や林もあって、木肌の中にも森が続いていると気づかされる。それはただの木肌なのに、絵画と呼びたくなる。とても感動していて買うかしばらく迷う。

人形劇まで少し時間があったので、冷静に考えるのにもちょうどいいと船に乗る。ウラジオストクの湾を周遊する観光船だ。ひとつも聞き取れないロシア語の解説を聞き流しながら、海を眺める。海から見ても特別何か違った印象があるわけでもなく、もう知っている場所を遠くから眺める。周遊。どこかにたどり着かない船はなんだか物足りない。あんまり面白くない退屈な海上。香港で乗った船は、対岸にたどり着いた。それだけでなんだかうれしいものだ。

港に戻ると、意外と時間がギリギリだった。早足で坂を上る。ウラジオストクは坂の多い町だ。坂の多い港町。坂の多い港町にネコとウミネコ。素敵だ。

ちょうどはじまるくらい。小さなフリーマーケットに寄り絵画を買うと、人形劇場に入る。客席には子どもたちがいっぱいいる。はじまると恐らく人形劇場のメインキャラクターと思しき緑色のおじさんが、今日の演目を紹介している。それから劇が始まると、三匹のぶたが出てくる。こぶたたちが歌っている。聞いたことのあるメロディで楽しそうに歌っている。そこに狼が登場して逃げ回る。それから次の場面で家を建てている。やっぱり三匹のこぶただ。家を建てながらまたさっきのメロディを歌っている。舞台にはわらの家と枝の家。案の定壊れる。それからレンガの家が登場する。吹き飛ばそうとするが中々壊れない。すると狼は電動ドリルを取り出す。狼が叫ぶ。「Made In Japan!!」日本製のドリルでも中々壊せない。それからしばらくして狼はドクロマークのついたミサイルを持ってくる。火をつけるとミサイルが発射。照準が何故か狼に向いていて、狼はミサイルと共に爆発してしまう。悲しそうに歌う。またさっきと同じメロディ。

ずっと同じメロディで飽きてしまったけれど、思ってた三匹のこぶたと違くて面白かった。

人形劇場を出ると、小さなフリーマーケットは店を畳んでいて、さっき買っといてよかったあと胸をなでおろす。

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カナタナタ
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