Not for dynamite, for candle。

 おれのジャケットの裏地には32個のダイナマイトが縫いつけてある。ポケットには1個のライター。おれはテロリストだ。

 何でもよかった。とりあえず人混みに紛れて火を点けようと思った。町を歩く。いっぱいの人が歩いている。でもみんなバラバラで。これでは数人しか。もっと人が密集しているところはないのか。

 時々ポケットの上からライターを確かめた。まだ不安でポケットに手を入れる。ライターのつるつるとした表面をさする。火を点けるスイッチの位置を確かめると親指を一度当ててみる。それでやっとポケットから手を出す。また歩く。手のもってきばがわからなくなって、またポケットに手を戻す。

 歌が聞こえてくる。明るい歌声だ。

 僕は誘われるように歌のほうへ歩く。

 そこには人だかりがあった。

 ここだ。

 おれはもう一度ポケットを確かめる。
 人だかりの中心に歌い手がいるらしい。おれは近づく。

 「Happy birthday to me.」

 歌が聞こえる。

 「Happy birthday to me.」

 憐れな歌だ。
 すると人だかりが歌いだす。

 「Happy birthday to you.」

 大合唱だ。

 輪の中に入ると、歌い手がうれしそうな顔をしているのが見える。
 彼女の前にはギターのハードケースがあって、その上にケーキが置かれている。ろうそくの火がゆれている。

 風が吹く。

 ケーキの上のろうそくはあっ気なく消えてしまう。

 彼女が悲しそうな顔をする。
 人だかりが慌て出す。ポケットやバッグを探っている。

 今だ。

 おれはライターをポケットから取り出すと、親指に力を入れて火を点けた。それからジャケットに手をかける。

 「あっ。」

 彼女がうれしそうな顔をしてこっちを見ている。

 ゆっくり、と 近づいてくる。目の前にやって来る。大きな目でじっと見つめると、僕のライターの火を吹き消した。

 大きな拍手が起こる。歓声が起こる。

 「あなたの火は爆弾のためにあるんじゃないわ。ろうそくを灯すためにあるのよ。」

 そう芝居じみた言い方をして彼女は僕の手を取った。それから世界中のろうそくに火を点けた。
 大きな火がハゲ頭に当たって反射してるのを見て、もう一つろうそくがあるみたいと笑ったりした。
 予定していたよりももっと大きな火が世界を包み、世界は明るく暖かく照らされていた。

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カナタナタ
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