みにくいマトリョーシカ(ウラジオ日記27)

夜、噴水通りを抜けて海岸沿いに続く飲み屋を冷やかす。飲み屋と言っても仮設の簡単な造りのお店が並ぶ。海の家に近い。そこに並ぶようにアスレチックが置かれた小さな公園がある。子どもたちが駆け回ったり、青年たちが筋トレしたりしている。居酒屋に子どもを連れてくだけで目くじらを立てる大人が多いが、親だってストレスが溜まる。お酒も飲みたい。保育園に預けられず、頼れる近所づきあいもなかったら、それはしょうがないし目くじら立てて怒るような事ではないと思う。子どもを夜に連れて歩くのはそんなにいけないことなのか。日本でも、こういう子どもが遊んでるのを横目に見ながら気楽に飲める場所があったら、少し肩の荷が下りる人もいるのではないか。子どもの楽しそうな声を耳にしながらお酒を飲む。とてもおいしい。

並びには射的があった。日本とは違い金属の弾を使用する。ハリウッド映画なんかで遊園地に行くと、主人公たちがよく遊んでいる射的だ。Mr. & Mrs.スミスで夫婦が自分の手腕を相手に見せてしまうシーンが一番有名か。的は常に動いていて、金属の的が中央で回転したりしている。ディズニーランドで言うと、ビッグサンダーマウンテンの下にある射的場。ああいう感じ。人に話しても意外と通じない。俺なんかは興奮して、お金を払って弾をもらう。

一発目、打ってみると結構な反動が来る。的には当たらない。映画のシーンを思い出し、ブラッドピットの構え方を真似してみる。的に当たる。コツを覚えた。射的は結構、得意なほうだと改めて思う。景品があるみたいだが、仕組みがまったくわからない。あれに当てると貰えるみたいな的があるのだろうか。的を倒しても、音が鳴るわけじゃないし、店主も見ていない。ほかにも撃っている人がいるから、得点制でもなさそう。それとも自己申告なのだろうか。欲しい景品はなかったので、あまり気にしなかったが。その後はほとんど外れることもなく、弾を使い切ると満足気にその場を去る。前にもnoteに書いたのだけれど、のび太にまたシンパシーを覚える。(「名前を変えようかしら」)

マトリョーシカを買おうと露店を回る。スタンダードなものもあれば、ディズニー、マーベル、ポケモンのもある。プーさんのマトリョーシカはあまりに似ていなくて、一瞬何のキャラクターかわからないが、中を開けるとティガーが出てくるから、あ、プーさんだとやっとわかる。しかも3000円くらい。結構高い。
政治家のものもある。置かれているのはロシア、中国、日本政府のものだ。安部首相の中に少し小さい麻生副首相が入っていて、その中に少し小さい菅官房長官が入っている。中国も同じような感じだが、ロシアだけはプーチンの中にプーチン、その中にプーチンと色んなプーチンが収まっている。結構皮肉が利いているなと思った。

なんで他の国はないのだろう。近隣というなら、韓国や北朝鮮があってもおかしくないのに。

お土産に買ったのはスタンダードな方だ。一つは青いマトリョーシカ。大きさを変えた青いマトリョーシカが更に二体中に収まっている、小ぶりでかわいいやつ。それから同じ大きさの白っぽいマトリョーシカ。開けると中にはおじいさんが入っていて、更に開けると小さい猫が出てくる。もしかしたら何かの童話を模しているのかもしれない。

もうひとつ欲しいなと見ていたら、お店のおばさんが観光客にマトリョーシカを説明しているのが聞こえてくる。「ビューティフル」と言ってマトリョーシカを見せ、中身も空けて見せてあげている。「ビューティフル」と言ってまた違うマトリョーシカを見せている。「ノットビューティフル」と聞こえてくる。気になって見てみると確かにペイントが他と比べて雑だ。しばらく見ているとまた他のお客に「ビューティフル」「ノットビューティフル」「ビューティフル」と言って紹介している。これは美しくないけど、これを見て美しいでしょと言うように、引き合いに出されて醜い醜いと言われているマトリョーシカがなんだかかわいそうになってきて、おれが買わなきゃ!という気持ちになる。そのマトリョーシカは他のマトリョーシカよりも半額くらいに安かった。

よく空回りしてて、でも憎めない、いっつもいじられ役の、「いい人」が堂に入った知り合いのおじさんにそのマトリョーシカはあげた。他意はない。

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カナタナタ
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