カラオケに行った(1)
今日私は節操のない格好をしている。
下は眉村ちあきのステテコ、シャツはスーパーオーガニズム、バッグはaiko。
全部好きなんだから仕様がない。
仕事終わりにカラオケに行った。久しぶりのひとりカラオケ。眉村ちあきの曲を歌いまくる。
外に出てみると、空が広い。狭い空間から出た後だから、心もカラオケ前より明るくなったから、月が小さかったから、雲が見当たらなかったから。考えれば理由を並べられるけど、ただ空が広く見えたと言ったほうが素敵な気がする。
twitterで「今日の空は広いなあ」なんてつぶやこうとしたが、なんだか気取ってていやだからやめた。でも空が広いなあと、ひとり路上でつぶやいたのは事実だ。
カラオケでは眉村さん以外に二曲だけ違う人の歌を歌った。カネコアヤノの歌だ。声を張らないと歌った気にならない。声を張って歌う。精一杯に声を張って歌う。音はやさしいのにそれはパンクみたいだ。銀杏BOYSを歌ってる時みたいに声を張る。カネコアヤノのライブを思い出す。彼女もそんな風に声を張る。かすれてしまわないギリギリでそれが歌声として届くとき、とても感動する。彼女自身も言うようにそれは飛んでいくみたいだ。声がどこまでも飛んでいくみたいだ。
カネコアヤノのすごいのは歌詞がぜんぶ耳に入ってくることだ。ことばのひとつひとつが確かな輪郭を持って、耳に入ってくる。それはある人にとっては当たり前のことだろう。歌詞に感動して好きになるということはよくあるらしい。私は歌を聞いてもそれは音として聞こえてくる。言葉は歌詞カードを見ないとわからない。音楽を構成する一つの音として歌声が鳴っている。そういう印象だ。だからカネコアヤノをはじめて聞いたとき、ことばが聞こえてきて衝撃を受けたのだ。歌声として美しいそれが、ことばまで届けるのだから。
カネコアヤノのCDを買う時、曲を再生する前に歌詞カードを読む。電車の中、短編小説をひらくみたいにして読む。それは今をときめく詩人たちよりもたしかに詩人に思えて、私は感動する。そして歌を聞くと、確かにそれは歌なのだ。美しい装丁に彩られた詩集のように、彼女の詩が歌声を伴い音楽を伴う。だから今度出る彼女の詩集が楽しみだ。
今日私は節操がない。
下は眉村ちあき、上はスーパーオーガニズム、バッグはaikoで、カネコアヤノの話をしている。
ラジオで流れてきてすぐに聞きほれた。それからすぐにライブを見に行った。しかも神戸まで。僕が住んでるのは横浜で、別に東京でもライブあるのに。洋館でやると言うのに惹かれてしまったのだ。そしたらめちゃくちゃかっこよくって、思わず次のグッゲンハイム邸での公演をその場で買ってしまった。最高だった。
それから会った友だちにカネコアヤノを薦めた。後から聞いたら俺がそんなに熱を込めて誰かを薦めるのは芹明香以来だったらしく、芹明香に並ぶならとその子は聞いてみたらしい。それで今でもめっちゃハマってくれている。それからその子の働いてる会社のイベントにカネコアヤノと眉村ちあきが出る。ゴッドタンでかっこいいなと気になっていた眉村ちあきをそこではじめて見ることになる。あまりに良くって、正直その日のカネコアヤノはあまり覚えていないくらいだ。
縁を感じている。
土曜日のシブヤノオトのスペシャルに、眉村ちあきとカネコアヤノが出ていた。「ほめられてる!」を地上波の音楽番組で、らしく歌っていることに泣けたし、「光の方へ」で歌声は確かに響いていた。慣れない当てフリにバンドメンバーの動きはぎこちなく、それがかえって魅力的で気づくとまた泣けてきた。
カネコアヤノの話ばかりしたけど、眉村ちあきの歌を歌いまくれて楽しかった。だって前行ったときは二曲しか入ってなかったから。
正直まだ歌い足りない。
前に友だちとふたりで行ったとき、その二曲を歌った。「メソ・ポタ・ミア」と「東京留守番電話ップ」。そしたらめっちゃいい!と感動してくれて、お返しにBillie Eilishを歌ってくれた。まだその名前を知らなかった俺は「bad guy」メタクソカッケーってなった。
広い空に浮かぶ月を見てエレファントカシマシを歌いたくなる。節操のない。
(つづく)
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