天 朗
直木賞作家の佐木隆三(1937-2015)先生が蓮田市に一時住んでいたことを知る方は多くはいません。亀田家と佐木家は目と鼻の先に住まい、家族ぐるみで時折食事をするほどの親交がありました。ある日、佐木先生から「思無邪」と銘された油煙墨を土産にと頂いたことがあります。35年ほど前のことです。小説が映画化されるなど(『復讐するは我にあり』主演:緒形拳さん)、作家として時代の寵児でしたが、実は大酒飲みで警察のお世話になることもあったことは内緒です。犯罪をルポルタージュして作品の構想を得ていた先生が留置場で夜を明かすとは、滑稽な出来事です。
思いよこしまなし、の先生から頂いた墨を磨り、「天朗(てんほがらか)」と揮毫したことを先生が知ったら、きっと高笑いされるに違いありません。墨が紙の繊維を滲みながら進むように、佐木家との日々も淡く澄んだ大切な思い出の一ページです。