魔法の言葉を紡げたら

 ぼくには友だちがいないんだと君は言ったね。ひとりいたけど、その子もすぐにほかの子と遊ぶようになっちゃって、またゼロになったって。

 かける言葉が見つからないってこういうときにいうんだと実感したよ。

 このあとの返しとして、なぐさめの言葉をかければいいのか、それともはっぱをかけるような言葉がいいのか正解がわからなかった。そもそも算数ドリルでもなければ、クイズでもないし、正解があるようなものではないんだろうけど。

 まてよ。書いていて気づいたのだけどタイムマシンに乗って、どちらかを選択した未来を見に行ったとしたら、どの言葉がいいのか正解がわかるから、やはり正解があるようなものだよな。

 正解があるのだから、やはりどういう言葉をかけるべきか吟味すべきだろう。だけど、そんな時間はないこともわかっていた。そもそもタイムマシンなどないわけだし。そうなるとやはり正解はないね。

 ぐるぐると思考が脱線してしまってごめん。僕の悪い癖だ。こうやって考えすぎて、いつまでも無言でいるから落胆されることが多いんだ。でも、僕はきみに落胆されるのはいやだった。だからすぐに答えただろ? すぐではなかったと感じていたらごめん。僕にとっては、あれが最速なんだ。

「それはとても悲しいね。でもゼロだっていいと思うよ。じつをいうと僕もゼロだからね。ゼロでも僕はきみと出会えたから幸せさ」

 僕はこういったね。きっとこの言葉が正解に近いはずと思いながら言葉をかけたんだ。ほんの少し僕の気持ちをくわえた言葉。

 素直な気持ちを言葉にするのは恥ずかしいものだったけど、最近はそれができる。ヒトは成長するものだね。経験値を積むと成長するのさ。

 きみが好きなゲームと一緒だよ。そう、剣と魔法でたたかうあのファンタジーの。魔法がつかえたら本当に便利だよね。僕も君くらいの歳に憧れたもんさ。

 これはトップシークレットだけど、僕は魔法使いなんだよと伝えたら、きみは驚き、それから哀れむような表情を浮かべて僕のつるりとした頭をなでてくれたね。しっとりとした小さな手は温かかった。その温かさは僕の胸のあたりまでじんわりと包んだよ。

 そんなやさしい君に、できることなら友だちを作ってすぐに眼の前に出してやりたい。やり方はいろいろある。僕にはその力があるからね。だけど、それじゃあやっぱり君は心の底から笑えないだろう? 

 本当の友だちってのは、金や道具の力で作れるものじゃないんだ。だから僕もゼロのままなんだ。いや、僕の場合はちょっと違うな。僕は、僕の行動によって、ゼロにしてしまったんだ。ひどいやつだったんだ、僕は。

 君のおばあちゃんやお母さんにもたくさん迷惑をかけたんだ。

 さっきの魔法使いの話だけど、君もすでに魔法使いなんだよ。魔法使いはこの世界に本当に存在するよ。僕はそのことに気づくのがかなり遅かった。そのせいで周りのみんなを傷つけた。だから、君には早めに伝えておきたかったんだ。

 魔法なんか使えないって思ってる?

そんなことはない。君の言葉が魔法なんだ。

 優しい言葉をかければ、人を癒やしたり、楽しい気持ちにできる。

 その逆に、攻撃的な言葉を投げつければ、人を傷つけてしまう。

 当たり前と思うかい? そうさ、魔法は当たり前に存在してる。

 僕は君に友だちをあげたいけど、それだけは僕の魔法じゃできない。君の魔法じゃなきゃだめだから。

 そうはいっても愛する君にせめてもの慰めになればとプレゼントを贈るよ。

 言っておくけど僕がいままで買った物の中で一番高かったよ。君のおばあちゃんにプロポーズしたとき渡した指輪の何倍になるだろう。本当に高くて久しぶりにびっくりしたよ。まあ、おばあちゃんも君のためならいいよって言ってたから、高すぎても怒られることはないさ。

 いつか君に本当の友だちができたとき一緒に見上げて笑いあってほしい。

 残念ながらやはり友だちができなかったとしても、見上げたら輝いているから。声を押しころして泣くような夜でもきっと優しく照らしてくれるさ。

 君が大人になる頃には箒に乗ってそこへ行くこともできるだろう。

 あの一番あかるく輝く星へ。

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