今から帰るよの罠
「今から帰るよ」と恋人からLINEが入った。
今から帰る、ということは現在地から自宅まで真っ直ぐ寄り道せずに帰って、20分程でただいまとドアを開ける、ということだと思うのは私が愚かなんだろうか?いや正しいはず。
20分後にはご飯が食べれるように準備をしておきたいと思う。疲れて帰った彼に、美味しいご飯を食べられる環境を、一人の時間になるべく整えておきたい。これは愛であり私のこだわりでもある。端的に言ってしまえば仕事のトロい人間が苦手な私は、他人はさておき自分はなによりも効率的に時間を使いたい、プライベートでも。効率的ばかり考えて余した時間をなんにも使えてないので、全く意味はないけれど、目の前の課題はとにかく手早く片付けないと気が済まないのだ。
ということで、今晩の献立たこ焼きの焼く前までの準備に15分じゃ間に合わないなと察した私は、先にお酒のアテを作っておくことにした。帰った彼が「お腹空いた~」といいながら、軽く1杯やれるつまみをテーブルに2品。よしよし、いい嫁だ、その調子だと自分を褒めたたえつつ、たこ焼きの準備を進める。あと5分ほどで彼は帰宅するはずだ。
ところが、キャベツのみじん切りを終えた辺りで、どうも進捗芳しくないことに気づいてしまう。彼が帰ってこないのだ。そもそも買い出しから合わせたら45分以上「今から帰る」から経過してるのに。あ、察し〜。という感じだ。
彼は時間にルーズだ。正確に言うと、私との時間にルーズだ。私との時間は、正確な約束じゃない。正確で確実な約束以外はとにかくルーズだ。親しい人間であればあるほど。
私がこんなに「今から帰る」に対して思考を巡らせていることなんて微塵も感じちゃいないだろうな。
付き合い始めの頃はそれこそ、一々怒ったり、帰りが遅いことを心配して泣いたりした。でも、まぁ冷静に考えると「まず20分後にご飯が食べれるようにしろ」なんて言われてない。ましてや、今まで帰宅してご飯が用意されてなくて怒られたことなんてないし、ご飯を帰宅に間に合うように作るのは、私の慈善活動であって、私のやりたいことにすぎない。
こんな風に言ってしまうと、そんな寂しいことある?と思われてしまいそうだけど、わりとこの1歩立ち返る思考が、長く一緒にやってこれた秘訣なのかもしれない。まぁできるなら「やっぱりキリのいいところまで仕事してから帰るね」を早めに申告して欲しいけど、実際彼は1時間後に「どうしたの?」とLINEしたらこの返事を送ってきたし、「もう準備できてるよね、急ぐね」と送ってきたので、キャベツの微塵切りの後で手を止めていた準備を再開した。
勝手にまわした気を、褒めて欲しいなんて、受け止めてもらえないから怒るなんて、恋人同士でもおこがましいと思ってる。ましてや自分が気持ちよくなりたいための気遣いだから。それは気遣いとは言えないんだけども。極端な話、こちらが勝手にやってる事に怒ったり悲しんだりするのは、お門違いなのだ。でも、世の恋人たちは思いやりの受け取り方でよく揉める。
「もう帰ってきたの〜?まだなんも準備してないよ~」なんて言ってる未来がわりとすぐそこに待ってる気がする。彼はきっと許してくれるだろう。それぐらい私も、ゆるい自分を認められる人間に成長したい。