歴史建築保存プロジェクト「次代に繋げたい~あなたが選ぶ~飯能の建物」パネル展 投票結果発表&2022年度活動報告
はじめに
埼玉県飯能市は関東平野と秩父山地が接する場所に位置し、市域の75%を森林が占めています。近年は山や河のレジャーで人気を集めていますが、その中心市街地に江戸時代から昭和期にかけての歴史的建造物が数多く残っていることは、あまり知られていません。
私たち埼玉ハンノウ大学が拠点を置く「旧・飯能織物協同組合事務所棟」もその一つ。大正時代の和洋折衷の意匠を残す歴史ある建物は、国の登録有形文化財に指定されています。
飯能のまちを歩けば、そこかしこに歴史情緒の残る建物が姿を現します。しかし、それらは同時に、老朽化や改修費用、建物を守る担い手の不足などから、この先いつなくなるとも知れない課題を抱えています。
歴史的建造物とそれらが作るまちなみは、その土地の歴史と文化を、今と未来に伝える“生きた教科書”です。
私たちは、これらの建物の存在をより多くの人に知ってもらい、保全活動と中心市街地の景観形成に対する理解を深めてもらうため、2022年10月~2023年2月にかけて「次代に繋げたい~あなたが選ぶ~飯能の建物」パネル展(巡回展およびウェブ展示)および人気投票を行いました。
本パネル展の模様は、飯能日高テレビ様において12月18日から24日まで「もっと奥武蔵:歴史的建造物写真展」として特集紹介され、文化新聞様では10月から12月まで「紙上写真パネル展」と題して連載記事を掲載いただきました。
さらに、会期中の10月21日には新井重治飯能市長がパネル展に来場いただきました。飯能市では『第5次飯能市総合振興計画』に「歴史的建造物の保存と活用」や「景観形成重点地区及び景観重要建造物等の指定推奨」を明記しており、市長へこれらの計画をさらに推し進めていただくよう要望しました。
投票に当たっては、パネル展会場に投票箱を設置したほか、埼玉ハンノウ大学ホームページでもウェブ投票を呼び掛け、のべ406人の方に投票いただきました。ご協力いただいた皆様には心より御礼申し上げます。
ここに集計結果を発表するとともに、2022年度に取り組んだ飯能の歴史的建造物&まちなみ保全のための取り組みを併せて紹介します。飯能のまちなみを彩るレトロな建物たちに、ぜひ関心を寄せていただければ幸いです。
投票結果
ここでは、100票以上を獲得した上位6件を紹介します(No.はエントリーリストの番号)。
1位 旧・飯能織物協同組合事務所棟(No.12) 182票
2位 店蔵絹甚(No.3) 146票
3位 畑屋(No.26) 135票
4位 江州屋(No.4) 126票
5位 師岡家住宅(No.20) 115票
6位 吉川理容所他(No.16) 104票
1位は古くから「オリキョー」の名で親しまれる「旧・飯能織物協同組合事務所棟」(No.12)。
かつて飯能の経済を支えた織物業の組合事務所で、イギリス下見板張りの洋風建築ですが、漆喰内壁の鏝絵(こてえ)や屋根の鯱(しゃちほこ)など、大正期の和洋折中の意匠が魅力です。国の登録有形文化財にも指定されています。中心市街地のシンボル的存在として、市民からも愛されており、人気の高さがうかがえました。
2~4位および6位は、現在も店舗やギャラリーとして活用されている建物です。
2位の「店蔵絹甚」(No.3)は、明治期の絹関連の買継商店舗を営んでいました。飯能市街地で唯一、下屋屋根両袖に卯立(うだつ)が付いています。毎週水~日曜に一般公開され、ギャラリーやイベントスペースとしても利用できます。飯能市指定有形文化財。
3位の「畑屋」(No.26)は大正初期に建設された木造3階建ての料亭建築で、当時は花街の鰻割烹料理屋として、織物や材木商の旦那衆の社交場として大いに繁盛しました。
4位の「江州屋」(No.4)は昭和2年建造の町屋建築。初代は近江商人でかつては酒屋を営み、現在は鍛鉄作品と生活雑貨を扱うアンテナショップとなっています。
5位の「師岡家住宅」(No.20)は、もともと材木商の店で、近代和風建築の美しい姿に投票が集まりました。
6位の「吉川理容所他」(No.16)は、洋風看板建築の長屋で、外壁はルネサンス様式を用いてデザインされており、大正昭和のレトロな雰囲気が感じられる建物です。
パネル展 関連資料
■パネル展 エントリー全リスト
今回の「次代に繋げたい~あなたが選ぶ~飯能の建物」パネル展にエントリーされた29件は以下の通りです。
現在、店舗営業されている建物のほか、個人宅にも多数ご協力をいただきました。各建物の関係者の皆様、ご協力ありがとうございました。
■写真パネル展 会場&日程
2022年10月4日~21日 旧 飯能織物協同組合事務所棟1階
2022年11月1日~23日 ビリーフ・プラス「蔵」(旧飯能織物協同組合事務所蔵1階)
2022年11月26日~12月4日 飯能市立図書館ロビー
2022年12月6日~12月16日 ビリーフ・プラス「蔵」(旧飯能織物協同組合事務所蔵1階)
2023年1月10日~21日 マルトクカフェ
2023年1月24日~2月5日 飯能市民活動センター(飯能まるひろ7階)
■投票者内訳(全406票/年代別・居住地は未回答を除いて集計)
投票者の内訳をみると、飯能市立博物館にて小学生の郷土学習の機会に投票を呼びかけていただいたこともあり、10代以下の投票数が年代別で最多を占めました(73票、23.4%)。今回のパネル展と投票によって、若い世代の人たちに市内の歴史的建造物の認知度を上げたことは間違いありません。
しかし、一方で20代、30代の投票数は伸び悩んでいます。この世代は、建物を実際に保存・活用する際、維持管理やリノベーション利用の担い手として期待されることから、彼らにどのようにアピールしていくのかは今後の課題といえます。
投票した方のうち、飯能市内在住の方が約7割、市外在住の方が約3割で、市外の内訳は埼玉県内のほか、東京・神奈川・千葉の近隣県など広域にわたりました。地域の歴史や文化を守っていくためには、その地域内だけなく、外部からも評価を得ていく必要があります。飯能の歴史建造物とまちなみを飯能観光の目玉のひとつに押し上げるべく、今後も市内のみならず、市外・県外に向けたアピールを続けます。
■メディア紹介
飯能日高テレビ「もっと奥武蔵 歴史的建造物写真展」(2022年12月18日~24日放送)
文化新聞「次代に繋げたい~あなたが選ぶ~飯能の建物」紙上写真パネル展
2022年10月6・7・8・12・13・14・16・21・25・26・27日(パネル展No.1~11)
11月8・9・10・17・18・23・25・26・29日(パネル展No.12~20)
12月1・3・7・10・14・15・16・17・21・27日(パネル展No.21~30)
歴史建築保存プロジェクト 2022年度活動報告
埼玉ハンノウ大学では、歴史的建造物の保全・活用を進めるための取り組みとして、パネル展・投票以外に以下のシンポジウムと歴史まちづくりゼミを開催しました。
(1) シンポジウム「飯能まちなか・歴史的建造物を活用した景観まちづくり」
森林文化都市「飯能」にさらなる歴史文化の彩りを添える、「歴史的建造物の再利用」と「地域活性化」を目指すイベントとして、報告会とパネルディスカッションの2部構成で開催しました。また、新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策として、会場集客ではなくYouTubeによるオンライン(ライブ)配信としたことにより、759名もの視聴者数を得ることができました。
DATA
■日 時 2022年10月5日(水)19:00〜21:30
■会 場 旧・飯能織物協同組合事務所棟(オンライン配信)
■備 考 YouTubeでシンポジウム全編を動画配信しています。
https://www.youtube.com/watch?v=DXv8GiZ1voE
(協力:飯能イーストコート)
■当日プログラム
プロローグ : 歴史建築写真展紹介 18:45~19:00
第1部 報告会
「景観意識調査報告、市街地景観の現状とこれから」 19:00〜19:50
菅俣 直也(筑波大学大学院生)
「飯能市中心市街地における古民家保存の意識分析」論文報告
飯能市建築課・景観担当「飯能市における景観行政の現状報告」
浅野 正敏(建築家)
「飯能市中心市街地における歴史的建造物の現状報告」
第2部 パネルディスカッション
「テーマ:飯能市中心市街地の景観形成について」 20:00〜21:20
パネラー 深堀 清隆(埼玉大学大学院准教授)
荒木 牧人(株式会社80%代表)
尾崎 泰弘(飯能市立博物館 館長)
小野 まり(NPO法人埼玉ハンノウ大学学長)
コーディネーター 浅野 正敏(建築家)
ファシリテーター 大竹 悠介(西埼玉暮らしの学校代表)
(2) 歴史まちづくりゼミ「レトロモダウンタウン・飯能市街地に残る歴史的建造物探訪」
座学と街歩きを通して、参加者一人ひとりが楽しみ・学びながら、飯能市ならではの「歴史まちづくり」のアイデアを出し合う、フィールドワーク型ゼミナールです。
DATA
■講 師 浅野 正敏
(建築家/NPO法人天覧山・多峯主山の自然を守る会 代表理事)
■定 員 各回10名
■時 間 14:00~15:30 (90分)
■座学会場 idobataカフェ/ビリーフ・プラス「蔵」
(旧・飯能織物協同組合事務所蔵1階)
■日程とテーマ(2021年度開催分を含む)
2021年10月2日
第1回 「飯能市街地の歴史と歴史的建造物概観」(座学)
2021年10月31日
第2回 「銀座通り編」(座学と街歩き)
織協、新川長、杉山フルイ店、吉川理容店、白鳥家、土肥歯科医院
2021年12月19日
第3回 「南裏通り編」(座学と街歩き)
畑屋、八千代、高島屋、三輪家、長屋、一力、住田屋
2022年3月13日
第4回 「大通り編」(座学と街歩き)
奈良家、(新井・山川家跡)中清商店、銀河堂、絹甚、小槻家、
(大河原家跡、田口家跡)、旧土屋酒店
2022年4月17日
第5回 「北裏通り編」(座学と街歩き)
江州屋、(井上酒造跡)、小能家、酒田屋、小川医院、双木家、
(旧平沼商店跡)
2023年度の展望
多方面の協力を得て、2022年度はこれらの企画を実施・成功させることができました。2023年度は、新たに「レトロモダンタウン飯能 歴史建築保存プロジェクト」を発足させ、引き続き市民への啓発活動を行うとともに、保全活用に向けた課題と解決策をより具体的に検討・提言していきます。今後の活動にご期待ください。
以上