黙ってたって過ぎてゆく - 2020.11.14
人生で一番気まずかった食事は、と聞かれれば、即答できるくらいのランチがある。インターンをさせてもらっていた会社の社長と、その会社には入社せず別の会社を選んだ僕とのタイマンランチだ。片やベンチャーとはいえ百人からなる会社の経営者。片や世間知らずの阿保な学生。早々に話題は尽きて、会話の時間よりも沈黙の時間の方が長かったかもしれない。そんな人と、昨日再びランチに行ってきた。四年ぶり二度目の彼とのランチ。今や僕も一応事業を作る身だし、肩書だけ見れば同じ経営者の立場にある。この四年で、彼と話せるトピックがこんなにも増えたのかと考えると、どうやら僕も成長しているっぽい。
きっと昨日も、僕と彼の間にはまだまだ大きな解像度の開きがあって、彼が会話の水準を僕に合わせてくれていたのだとは思うけれども、昔はそれでも会話ができなかった。自分で言うのも憚られるが、僕は口が達者な方で、人と話していて会話が途切れることはほとんどない。彼も同じく、誰とでもフランクに話す経営者だったが、あの日は二人して会話の糸口を掴もうとして掴み損ね、掴んだかと思えば実に短い糸だったりと、とにかく散々だった。それだけ僕らの隔たりは大きかったのだと思う。まあそりゃそうだ。彼は僕の父と同じくらいの年齢で、仕事も趣味も出身も何もかも違う。
そう考えると、僕がお茶の生産者の方々としている会話って、なかなかすごいのではないか。下手をすれば僕の3倍くらいの年齢の方と話すこともあるが、それでもお茶の話は尽きない。最初は何を言っているか本当にわからなかった彼らの話も、一年間かけて僕も勉強してきた。どれくらいの面積でどれくらいの収量が上がるのか。農薬にどれくらいのお金がかかっていて、どんな土の状態がベストなのか。産地のこと、品種のこと、機械のこと。どれだけ学んでも終わりがなく、そしてそれは生産者であっても同じだ。何年茶業に従事していても毎年新しい発見があって、その研究に終わりはない。農業という限りなく広い領域においては、きっと僕も彼らも同じように求道者で、同じ目線で会話をしているのだなと、これを書きながら少し思った。
あなたのおかげで生活苦から抜け出せそうです