ネオ・ミドルイースト事情(その3、「運転手は君だ、お客は僕だ」続編)
中東の湾岸諸国会議(GCC)のメンバー国であるオマーン・スルタン国ではタクシー・ドライバーが全てオマーン人で、それは石油・天然ガス資源が枯渇した場合の危機管理策としての「オマニゼイション」(オマーン人化政策)であることは前号までのお話。
1 タクシー・ドライバー=モール
モール(MOLE)はモグラを指す英単語だが、別の意味をご存じだろうか?
それは
スパイ
を意味する。
何故タクシー・ドライバーがスパイなのか?
彼らは、オマーン内務省の命を受けた情報収集の「触覚」的役割を果たすモール。
タクシーのお客との何気ない会話から国家の危機管理に関する情報をつかんだら即座に内務省に通報する。
がゆえに、ちょっと英語が喋れるからと言ってタクシー・ドライバーと軽口などをたたいて機微な話題に触れようものなら速攻で内務省に直行というシステムが構築されている。
特に、国王陛下に関する醜聞や防衛その他に関する話題はオマーンのタクシー車内ではタブーである。
(思っていても)絶対に口にしてはいけない。
オマーンに限らず中東湾岸諸国は別名「警察国家」と呼ばれるほどこうした危機管理体制、監視体制(映像、ネット、音声)が敷かれていることは案外知られていない。
そうした厳格な情報統制のおかげで良好な治安が保たれている。
(すべてがノーズルで情報ダダ洩れの某東アジアの国とは大違い)
余談だが、若い女性はなるべくタクシーに乗らない方がよろしいかと。
理由は、
過去に何件か発生しているタクシー運転手による性的暴行
である。
行先とは全く別の砂漠地帯に連れていかれ、散々な目に遭ったという話は結構耳にする。
情報統制という点からもう一つ余談を。
オマーンの小高い山の上には携帯電話のリピーターが設置されてるが同時に軍事通信システムや監視塔なども設置されているので安易に山には登らないのが得策。
かつて同僚の大使館員が景色を眺めるために近くの小山に登ったところ身柄確保されたという嘘のようなホントの話もあるので、これは真実。
そしてインターネットなどの情報統制もしっかりしている。
情報統制省と呼ばれる国内全土におけるネット内容、音声情報をリアルタイムで監視するお役所が「ある山」の上に存在し国民がネットサーフィンする内容(公序良俗違反やポルノ関係、国家転覆に関する情報など)を逐次チェックしている。
こんな笑い話がある。
ある外国人が英国のエセックス大学に留学するためにネットで
「エセックス(Essex)」
を検索したらインターネットが突如落ちて、以後検索不能になったというお話。
なぜ落ちたのか?
エセックス(Essex)にはsexの三文字が含まれているので情報統制省のコンピューターがこれを察知してシャットダウンしたという訳。
一見何気ない平和で穏やかな国だが、それはこうした厳密かつしっかとした国家による危機管理、情報統制の上に成り立っているというお話でした。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
「ネオ・ミドルイースト事情」まだまだ書きますよ。