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ロジスティックを学んだ師匠

 1991年米国ワシントンDCの日本大使館。言わずと知れた世界最大の日本の在外公館だ。勤務する外交官はプロパー、出向者を問わず将来の日本を担う超エリートが集う。ここで勤務する歴代の公使は殆ど「あがりポスト」がどこかの国の特命全権大使。

 ここで私が出会ったのが

  ロジスティックの鬼

とも言われるM氏。

 同氏は、その後外務本省に帰還後最初で最後のロジ室長として名を馳せる。

 今回は、私がM氏から学ばせてもらったロジスティックの真髄について書いてみようと思う。

「貴兄らは100回目でも、お客さんは一生に一度」

  ワシントンDCの日本大使館は、本来外交業務のほかに本省や日本からの出張者対応などのロジスティックに忙殺される。

  特に総理訪米などがある場合は、その多忙さは最高潮に達する。

  全館を挙げて総理日程に全力を傾注する。

  ホテル手配、車両手配、配車、全体日程の検証

  サブスタンシャルと呼ばれる会議の中身以外は全てロジスティック班が担当する。

  その総帥がM氏だった。

  初めて会ったとき、鋭い目つきと低い押し殺したような声で圧倒されたことを思い出す。

  歯に衣着せぬ物言いが特徴で、外交官の階級とも言えるタイトルなど無視してキャリア外交官を相手に言いたい放題。

  だが、筋が通っている。

  私は当初ロジを半ばバカにしていた。

  「たかが接待じゃないか。それをどのように行おうと何の問題があるのか」

 と。

  そこでM氏が

   「貴兄らにとっては、100回目であったとしても出張者にとっては米国は最初で最後かも知れない。一期一会を忘れるな。客の立場に立ったロジスティックを心がけるべし」

 と私の心を見透かしたように嗜める。

  後に彼は「ロジスティックの神様」として崇められるのだが、この一言は私の顎を見事に撃ち抜くアッパーカットの如く身に染みたことを思い出す。

  以後私は自分が担当するロジスティックでは相手の立場に立って

  「どうやったら一番喜んでもらえるか?楽しんでもらえるか?失礼はなかったか?」

 を実践するようになれた。

  それは30有余年経過した今でも同じマインドとして不変である。

  ロジスティックは、テクニックだけではない、心が入ってこそ本物。

  明後日から東京の某国大使を接遇するに際して、もう一度初心に帰って

 「初心忘るべからず」

 とM氏の教えを反芻する私です。




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