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湘南の本|『コチャバンバ行き』永井龍男


湘南が舞台となった本を読むのが好きです

今回は小説です



本の紹介


『コチャバンバ行き』 永井龍男 
講談社文芸文庫 1991年

安穏・安全な「生」とは何か? 読売文学賞受賞の明篇ーー湘南で多少の土地を持ち、家を貸して自適生活する主人公。妻は仕事で不在がち。「安全な生活」とは何か……。元上司との様々なやりとりのあと、上司は妻を失う。南米・ボリビアでのバスの乗客の、何の苦痛もない死……。ささやかな生活の描写の中に、人生の哀歓をつむぎ出す、永井龍男独自の「美学」の結晶。『皿皿皿と皿』を併録。読売文学賞受賞作品。

https://bookclub.kodansha.co.jp/

参考)単行本出版
 『コチャバンバ行き』昭47年10月
 『皿皿皿と皿』昭39年1月



感想など


ジワジワ来るわ~、ほんと味わい深い

湘南に住む人々の暮らしが淡々と描かれているだけ

それが妙に心に残る

季節を感じさせる表現の数々

その一方、無駄な言葉を使わず、読者に想像させる場面も多い

例えていうなら、小津安二郎の映画を見終えたときのような

そんな読後感のある小説です


収録されている二作品とも昭和の戦後、高度成長期の湘南が舞台となっている

「コチャバンバ行き」は鵠沼から鎌倉あたりの江ノ電沿線

「皿皿皿と皿」は桜道という表現が出てくるのでおそらく茅ヶ崎だと思う

どちらも湘南の土地が、次々と開発され小さな土地に分割・分譲されていく様子が描かれている

 駅前と云っても、藤沢から江ノ島へ寄り、鎌倉へ通じている単線電車の途中駅だから、自動車がすれ違うにも苦労するほどな狭い通りである。
 それでも、この五、六年の間に、商店がギッシリ軒をつらね、昔の別荘地から住宅地に、すっかり変わってしまった。

「コチャバンバ行き」

 古風な倉一つ残して、三浦家へ曲がる角の土地は、きれいに整理された。
 昔ならば、当分近所の子供の遊び場になる処だが、そんな暇はなかった。
 それに歳末をひかえている。
 空地は四つ位に分譲されたらしく、三浦家へ曲がる角の地所にまず杭が打たれ、縄が張られたと見る間に、トラックが続々材料を運んできた。

「皿皿皿と皿」

こうやって、入り組んだ狭い道路にビッシリと住宅が建ち並ぶ湘南独特の街並みがつくられたのか・・



この本を知ったのは、前回紹介した『湘南 海光る窓』という城山三郎さんのエッセイの中で紹介されていたからだ

城山さんによると、気候の良い湘南で長く暮らすと、闘争心が薄れ根性もなくなり人は良くなるが、その一方で、調子が良くプライドだけは高くなるという

こうした「湘南人種」を活写したのが、永井龍男さんの『コチャバンバ行き』である。ほぼ二十年ほど前の作品だが、読み返してみても、少しも古くなっていない。一皮剝けば、登場人物たちがあちらにもこちらにも生息していそうである。

『湘南 海光る窓』城山三郎

永井さんの作品の舞台となった時代からは半世紀以上が経過している

土地の雰囲気というのはそれくらい時間が経っても変わらないものなんだな、と思った




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