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「歌物基本形」とは(2) ”3・7段目”

歌物基本形とは (1)
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前回は「歌物基本形」を提示しました。
今回は3段目・7段目に限定して比較検討してゆきます。

前回のおさらい。

Key in Cにおける「歌物基本形」

32小節の歌物で、共通するコード進行のフレームワークを提示しました。
特に3-4段目、7-8段目に共通項が多い。これは前回触れました。
ちなみに、ここに提示しているコードのほとんどは、以前に「バップのマインドマップ」示した図のコードが使われていることにお気づきでしょうか。

Key in C/Amのコードのセット

3段目・7段目

Subdominant(SD)→Subdominant Minor(SDM)の進行。
いわゆる歌物といわれる楽曲の、サビといいますか、クライマックスとでもいえる部分です。ジャズではこの書き方が多いので、これを「基本形」とします。

コードの表記には多少バリエーションがあります。今回はそれを示しつつ、そのなかで「どう吹くか」を論じてゆきます。

多くの曲では3段目と7段目は同じケーデンスを使うことが多いですが3段目と7段目を変えている曲もあります。
("All of Me" や"In a Mellow Tone"など)

基本的な吹き方

SDMは「経過のコード」です。
SDの響きが止まないなかでSDMのややダークな響きに移行し、トニックに移行する。
なので、SDMの範囲ってせいぜい一小節。
Fm7-Bb7それぞれ2拍ずつ、くらいのものです。
in Cでは、Fm7-Bb7の部分はシンプルにEbに転調と考えてEbのツーファイブを吹く、でいいとおもいます。そしてC△7に解決するのがポイントです。
短いツーファイブ。コードアルペジオっぽいフレーズが向いていると思います。楽理的には Bb7がEbに着地するのではないので、Bb7には+11のテンションがつくのが本則です。しかし短い2-5ですから、アドリブでスケールの微妙な違いを味わうようなスペースはありません。

以下、スタンダードブックのいろんな曲のコードを比較していきます。
多くは黒本(Jazz Standard Bible)を底本とし、一部 iReal proを掲載しています。すべて Key in Cに転調して記載しているのでご注意ください。

1. Cute

|F△7  |Fm6  | C   |    |

Jazz Standard Bible

3小節目以降はまた別のメロディー・コードが続くのですがそこは省略。
2小節目では|Fm7-Bb7|とⅡm7-V7を提示していません。Bb7なし。
F△7→Fm6という流れを重視しています。
アドリブをとる際は、基本形通り(Fm7-Bb7)で構いませんが、単発のFmとして吹くこともできます。Fm6の6はメロディーと衝突を避けているだけで、ソロではあまり気にしない。ただ、基本形の|Fm7-Bb7|だとFm7は「Fドリアン」に限定されます(つまりEbのキーのドレミ)がFm単独だと別のアプローチもできる。
Fm フリジアンと考えて Dbのキー(Db/Gbをフレーズに入れる)
Fm エオリアンと考えて Abのキー(Dbをフレーズに入れ込む)
FmΔ7と考えるとEの音を使うこともできる(Bbの+11でもある)
モーダル・インターチェンジで、この辺を生かしたフレージングもあるとは思います。
ただし、コード表記はFm6です。あくまで6thに忠実にフレージングするなら、ドリアンに限定されるでしょうね。

2. I'll Close My Eyes

|F△7  | Bb7 | C△7 |      |

Jazz standard bible

先ほどと違い、Fm7-Bb7のFm7を書かずにBb7だけ書いています。
この書き方、なんとなく|F7→Bb7|のセカンダリー・ドミナントのように処理しがちです。がそうではないことに注意ください。
|Fm-Bb7|と勝手にFmを足して基本形通りにして吹いてOK。
Bb7単独で書くと、7thの数多くあるバリエーションを想像しやすく、フレーズは膨らみやすいとは思いますが。

3. There Will Never Be Another You

|F△7  | Bb7+11  |C△7    |      |

Jazz Standard Bible

先ほどのI'll Closeと似ていますねが、+11のテンションが記載されています。これはメロディーにE音(in C)が含まれるため。
テーマで、コード楽器に「メロディーの音避け」のために強調されています。+11と書いていないとEbの音を使いがち。
ただ、アドリブではこの+11を過剰に気にする必要はないです|Fm7 Bb7|として吹いてください。ただBb7はそもそもV→Iと解決しない7thコードなので、書いてなくても+11の音を効かせるべき、でもあります。Lydian 7th スケールってやつ。

4. It Could Happen to You

黒本に、併記されています。
|Dm7   |   G7           |CΔ7    ||もしくは
|Dm7   | Fm7 Bb7     |CΔ7    | |

上は全く普通のツーファイブ進行です。
下は今回述べたSD→SDMの形ですが、この書き方ではややギクシャクする印象がある。機能和声的には F△7とDm7はいずれもサブドミナント(SD)であり、代替可能。がコードワークとしてはやや美しさに欠けるなあと個人的には思う。Dm7をあっさりF△7に変えてフレージングしてもいいような気はする。
昔の青本では上段のようにシンプルなⅡ-Ⅴとして表記されてもおり、そのあたりが忖度されているのかも。

SD→Tという流れの中で、SD→SDM→T、サブドミナントを効かせるか、効かせないか。という話だと思います。ツーファイブってD→Tなんですけど、厳密に言えば、SD→D→Tでもあるわけで、ツーファイブケーデンスの使いやすさ(懐の深さ)の良い例だと思います。

5. In a Mellow Tone

3段目と7段目でコードもメロディが違います。
|F△7  | Bb7  |C6    |A7  |(3段目)
|F△7  | F#dim7|C6/G   |A7  |(7段目)

Jazz Standard Bible

3段目は前述の2. I'll Closeと同じです。
7段目は Passing Diminishを用いています。これはSDM進行ではないことに注意。Fm7-Bb7と思って吹くと、少しハマらない。
トライトーンを斟酌し単純化すると、F7と考えてF△7-F7-C、が一番解釈しやすいでしょうか。逆デスペラード、とでもいいましょうか……(笑)。
サブドミナントのメジャー7th→7thという、ちょっと処理しにくいコードで、ディミニッシュの構成音を使った方が吹きやすいかもしれません。

6. All of Me

|Bm7-5|E7  |Am |  |(3段目・黒本)
|F         | Fm | C△7 |     |(7段目・黒本)
|F△7    | Fm | Em   |     |(7段目・iReal Pro)

「歌物基本形」の最ポピュラー曲が、All of Meだと僕は思っているのですが、All of Meはむしろひねりがあるために「All of Me」タイプと言いにくいんだよなー…。

3段目はAmに転調してます。
悲しい気持ちの演出です。確かに歌詞は" Take my lips, I want you lose them"と別れた恋人に唇を奪ってほしい…みたいな悲しい部分(キュンキュンしますね!)。
3段目は意図的にSDMのエモい感じを排除し、起承転結の「起」を積み上げています。そう、All of Meはじわじわタメる構成で7段目まではじっくり我慢の曲なんですよね。で、7段目で、オチというか、サビというか、展開します。

7段目はツーファイブではなく、IV→IVmとシンプルに書いています。
iReal では、次段の2-5の前段階の3-6とつなげて、F→Fm→Emと、それはそれでキレイに進行するコード進行にしています。
もちろん、「歌物基本形」的に FΔ7 Fm7 Bb7とアドリブしてもハマるとは思いますが、敢えてこの進行で、コードアルペジオで音を置いてみる、もしくはフレーズのモチーフを変形させるのもまたオツなものだと思います。

さいごに

あくまでフロント楽器的な視点で話していることにご注意ください。
アドリブという点に関しては、今回のコードのバリエーションは、
全部|F△7|Fm7 Bb7|C と読み替えて吹くことが可能です。
基本はあくまでこれ。

まず、この部位ででてくる美味しいフレーズを、トランスクライブしたりして研究することをおすすめします。もちろん、リードシートにそうでない書き方で記載されている場合に、なぜそうなっているのかは考えてみることは有意義です。多くはメロディとのからみです。
(理由もないこともあります。単に癖や好みのこともある)。

SDM(サブドミナントマイナー)は、以前の「バップのマインドマップ」でも述べましたが、ミュージカル時代に完成されたスタイルで、歌物の歌物たる「エモい」コード進行です。ここをしっかり押さえておきましょう。



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