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トーナル→コーダル→モーダル(1)
(1)トーナルとはなにか ←Now
(2)ジャズ研におけるトーナル感覚の問題点
(3)ジャズの歴史とトーナル→コーダル→モーダル
(4)トーナルと音感。トーナルだけでもジャズはできない。
コード進行、ジャズの理論の話です。
モーダルとコーダル
まず、ジャズ理論の前提にある
「コーダル」「モーダル」「コーダル・モーダル」について解説しよう。
簡単にいえば「コーダル:Codal」とは、ビバップ期の手法。
コード進行をどんどん分解してゆくような手法によって曲を構築し演奏するスタイルのこと。例えばCharlie Parkerのスタイルが好例。
「モーダル:Modal」は1960年代のモード期のイディオム。
モードによる演奏。これはMiles Davisの "Kind of Blue"が最もわかりやすいですね。
現代のジャズでは コーダルとモーダルのハイブリッドな状態になっていて、
菊地成孔・大谷能生は便宜上「コーダル・モーダル」とラベリングしています。(海外ではどういう風に言っているんだろう?)
ここまでは私も用語として知っていた。ジャズの歴史、理論の進化を表すのに便利な概念です。
前段階「トーナル」を考えると理解しやすい
実は、その手前の段階にさかのぼって考えると、とてもスッキリと全体を俯瞰できるんじゃないかと最近思うようになりました。
手前の段階とは、ある種「あたりまえ」のこと。調性感覚。
これを「トーナル」と呼称してみる。
トーナル→コーダル→モーダルという段階を考えてみる。
トーナル→コーダル→モーダルと段階づけると、ジャズ理論の進化の歴史だけではなく、プレイヤー個人の発達(つまり個人の成長過程)を俯瞰することにも役立ち、便利だ。
トーナルという言葉でラベリングされているのはみたことがないが、多分長くジャズを演奏している人にとってはご納得いただけるのではないかと思う。
トーナルとは何か
簡単に言えば、調性感覚である。
これはジャズでもなんでもない話で、音楽の基本的な力。
音感とかそういうものである。
ジャズ以前の音楽、例えば民謡を考えるとよい。
古典的な曲にはすべて、その固有の調(短調〜長調)がある。
例えば、民謡の多くは、単一の調で構成されていますね。
例:Danny Boy
赤とんぼ:
単一調性の曲は、理解しやすい。
もとの調=ルートを基準として、すべてのメロディーがドレミファソラシドで表される(経過・装飾音、奇音処理などの変則はあるが)
和声をつけやすい。ダイアトニック・コードでもいいし、機能和声(トニック・サブドミナント・ドミナント)の3つのどれかを当てはめると音楽が成立する。
もちろん、これは西洋音楽の話であって、民族音楽には、固有の音階や(例えば沖縄音階)固有の和音もあるのだけど、ここでは西洋音楽の話に限定させてください。
音楽の歴史は、長らくこの「トーナル」を基調としたものだった。
なにしろ、文字のない時代から音楽というものは存在したのである。
民族音楽のほとんどは調性とそこから導き出される音階に沿ってメロディーが作られる。
非常にシンプルなルール。
演奏者と視聴者の距離が近く、誰でも演奏し、歌うことができるためには、シンプルなルール以上のものは不可能であったわけだ。
西洋音楽においては平均律が見いだされ、シンプルなルール以上のことを共有できるようになった。演奏の専業者が出現し、誰でも参加できないことと引き換えに、ルールは複雑化され、音楽は複雑化し、音楽理論は深化した。
単一調性のルールを超えて拡張された作曲技法は、19世紀末のポピュラーミュージックの発展のかげで、調性の複雑化と、それを制御する標準化ルール(コード・フィギュア)が出現し、現在に至るわけだ。
バークリーで教えているのは、そういう複雑化された音楽の理論体系。
ジャズに限らず、すべてのジャンルの音楽は、今や「コーダル」もしくは「モーダル」を経て作成されている。いま我々が耳にする音楽のほとんどは単一の調性に基づいたものではなく、複雑化した(しかし複雑であるとと感じさせない)音楽だ。
しかし数年に一度くらいは、先祖返りしたような単一調性の曲が出現し、妙にヒットしたりするのである。
犬に生肉とか与えるような感じなんだと思う。きっと。
本能に訴えかけるんでしょうな。
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