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トーナル→コーダル→モーダル(3)

(1)トーナルとはなにか
(2)ジャズ研におけるトーナル感覚の問題点
(3)ジャズの歴史とトーナル→コーダル→モーダル ←Now
(4)トーナルと音感。トーナルだけでもジャズはできない。

Index

ここまで、トーナル=調性感覚ということで、
個人の奏者の能力という文脈で語ってきました。

しかし、本来はジャズ理論の コーダル モーダルが前提にあります。
音楽理論の進化という文脈で「トーナル」を振り返ってみましょう。

ジャズの歴史を俯瞰する

ジャズの歴史でしばしば語られる コーダル→モーダルですが、
厳密にいうと、コーダルが進化してモーダルにいったわけではない。
むしろコーダルが行き詰まりをみせて、モード奏法によって別の風穴があいた、と考えた方がいいように思います。
進化の過程でいえば、シンプルな調性感覚=トーナルを再び発展させた形がモード奏法だと思います。

ちなみに、現代、こういうアプローチはどうでもよくなっていて、
現在のジャズのほとんどはこの図式の最終形の”コーダル&モーダル”に行き着いています。コーダルとモーダルの融合です。
音大で教えているバークリー理論、マーク・レヴィンの「ザ・ジャズ・セオリー」などはすべてここの段階にある。

ただ、その前段階を考えた方が、特にフロント楽器のアドリブの初学者にとってはわかりやすいと思うのです。

私なりに図示してみたのがこれです。

Theoretical backbone of Jazz
Tonal >>Chodal>>Modal>>Tonal & Codal
転載ではありません。
画像が検索にひっかかればと思い、英語で書いてみました。

トーナル:出発点

トーナル=調性。
単一調性の音楽が、音楽のルーツです。
これは世界の民謡に広くみられます。
もう少し時代が下って、アメリカ音楽の父「スティーブン・フォスター」の楽曲が好例かもしれません。
「峠の我が家」「ケンタッキーの我が家」「おおスワニー」とか。

どれも見事に単一調性の、シンプルな曲です。

こうした単一調性の曲から、ジャズは出発しました。
具体的には、ニューオリンズスタイルとか。
ブルースもそうです。

今、我々がセッションで演奏する曲としては、

  • The Saints Go Marchin' In (聖者の行進)

  • Mack the Knife (Moritat)

  • Summertime

  • シンプルなブルース(Bag's GrooveとかCool Struttin'など)

が、こういった単一調性の曲であると言えるでしょう。

トーナル→コーダルへの進化

こうしたシンプルな音楽が、現在我々が演奏している比較的複雑なサウンドに至るまでに、いくつかのブレークスルーがあります。

ミュージカルナンバー

まずは、クラシックの進化、そしてクラシックから派生した19世紀末の大衆音楽です。
シンプルな調性を装飾するコード進行や、単一調性から、同主調・平行調をきっかけとする転調、さまざまな転調を許容する文化は、Gershwin、その他大勢のミュージカルの楽曲が量産された時代なのですが、様々な転調、コード進行のパターンが発展しました。

現在我々がセッションで演奏する「スタンダード曲」の多くが、この時期に作られたものです。
この時代、まだ「コード記号」によってハーモニーを規定する様式は完成していなかったにも関わらず、現在のコード進行の原型はこの時期に出揃い、そして作曲家たちはコード進行をコモディティ(共有財)として共用しています。

コード技法としては、

  • 3-6-2-5進行

  • セカンダリー・ドミナント進行

  • サブドミナント・マイナー

  • クリシェ

  • Passing Diminish

こういった、定番のケーデンスはこの頃に確立されています。
この辺りのコードのセットは、

に書きました。

転調(調性の複線化)

また、同主調(CメジャーとCマイナー)と平行調(CメジャーとAマイナー)などを行ったり来たりして調性を拡大する技法も確立されました。
On Green Dolphin Street、I Love Youなどを想起してください。

また、AABAのようなフォームのBメロで、大胆に転調し、元の調に戻る、Bridge進行で転調のパターンも数多く試みられました。
定番のものでは、"I Got Rhythm"と"Satin Doll"などがあります。
I Got RhythmのBメロには Sears Roebuck bridgeという言葉があります。
Satin DollのBメロは別名Montgomery-Ward bridgeといいます。この用語は現代ではほとんど使われません。

さらに複雑なパターンとしては、”All the Things You Are”、”S' Wonderful”、
”I Concentrate on You”あたりが、このへんの豊穣な転調技法の真髄かと思います(時代は下りますが、The Girl from IpanemaのBメロもなかなかのもの)

このあたりはジャズではなく、その時代におけるポップス(今ではどちらかというとクラシックに位置づけられますが)の話です。
そんな中で、Duke Ellingtonはこうした音楽業界の中でも「ジャングルサウンド」といわれる独特の雰囲気をもったサウンドで人気を博していました。

Be-Bop

それでは、ジャズはサウンドの進化・発展に寄与していなかったのか?
というと、そうではありません。
Codalの音楽において、大きな貢献を果たしたのはBe-Bop。
いわずとしれたCharlie Parkerです。

Charlie Parkerのやった演奏技法は今にしてみればさほど難解ではありません。ツーファイブワンのコード進行も、代理コード(Ⅱm7→Ⅱb7→Ⅰ)を用いた進行もすでに前述のポップスで多用されたものです。
しかし、Charlie Parkerの真髄はそれらのコード・ケーデンスを、「えぐい」ほどの密度で詰め込んだことにあります。
私は「マイクロ転調」と勝手に呼んでいますが、でてきた任意のコードに対し、その瞬間そのコードをルートとみなした調に転調したとみなして、その前に2−5を(もしくは半音上の7thを)入れ込む手法を、アドリブに取り入れました。
結果的には、シンプルな調性から素早く離れて素早く解決する、すんげースピード感があってかっこいいサウンドになったわけです。

この手法は戦後アメリカのジャズを席巻しました。
しかし、Be-Bopの先鋭さは、残念ながらポピュラリティを得たわけではなく、後代ロックに取って代わられる下地を作ったのかもしれません。

Codalの行き詰まり

敬愛するClifford BrownはこのBop技法の正統伝承者だと思っていますが(Joy SpringやJorduなどのコード進行をみてください)、ではClifford Brownが、たとえ長生きしていたとして、ルイ・アームストロングのような国民的人気を博したかどうかは、極めて疑問であると個人的には思います。
コーダルによって豊穣化したサウンドも、そのスタイルだけでは限界があります。

モーダル、そしてモーダル・コーダルへ

そんなコーダルの行き詰まり感を打破したのは、
マイルス・デイビスの「モード」でした。
終わり。

うそ笑。

実はジャズの歴史はここから面白いんですが、総括できるほど私もわかっていません。

いくつかのジャズの潮流が派生します。
まずは、クロスオーバー(フュージョン)にいく流れ。これは狭義にはジャズではなく広義にはジャズに含まれる話で、意外に境界が難しい。
また、フリージャズと言われる一派もあります。この枝は70年代末に絶滅してしまいましたが、御大コルトレーンの晩年を語る際にはフリーを避けては通れない意味で、やはり進化の袋小路と簡単に言えないものがあります。
マイルスのセカンドクインテットから、ハービー・ハンコックが代表的ですが、現在のモーダル&コーダルといわれる現代ジャズの流れにゆく潮流。
これが今のメインストリームになるんでしょうね。

日本で「ジャムセッション」といわれるアマチュア参加型のセッションにおいては、モード以前のコーダルジャズまでのレパートリーが取り上げられるのが現実だと思います。

コードやスケールの複雑性をすべて包含できるのが、コーダル&モーダルであり、バークリー理論だと思うんですが、
プロ・ミュージシャンを目指す音大生などはやはり、このお作法にのっとって学習することが望ましい。なぜならば演奏の打ち合わせなどをするに際して共通言語でコミュニケーションすることが必要だからです。

しかし、ジャムセッションでアドリブをする、というレベルであれば、調性(メジャーマイナー・スケール)とコードアルペジオをきちんと吹けるようにして、きちんとアドリブソロを「歌う」ことを優先させたほうがいいように思います。
「歌う」ことが必須な楽器においては特に。
有限の時間を有効に使いましょう。










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半熟ドクター
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