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アドリブ研 : "How High the Moon"(1)
通算第4回。アドリブソロの作例研究です。
今回は 四国で夫婦でジャズに耽溺している Kさん(奥さんの方)のリクエストで、"How High the Moon"となりました。
曲の概要
もともとはバラードだったそうです。
1940年のブロードウェイミュージカル Two For The Show の中の一曲。モーガン・ルイスの曲の中で唯一ジャズ・スタンダードとして生き残った曲らしいです。ビッグバンドの定番ナンバーでもあり、バップの黎明期にも時代が重なっていたこともあり取り上げられています。
コントラ・ファクト
ジャズ研諸君なら当然知っているであろう知識ですが、
このHow high the moonと全く同じコード進行で、Be-bopの名曲 "Ornithology"が作られています。
"How high the moon"と"Ornithology"では、ずいぶん印象が違いますね。
こんな感じですかねー
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Ornithologyはチャーリー・パーカーのソロのフレーズから作られているそうで、メロディーそのものがBe-bopの語法でできています。
というか、ほとんどのBe-bopの曲は元ネタがあり、コード進行を借用してできています。Be-bopは音楽のジャンルというよりはアレンジ技法やサウンドのスタイルに過ぎないと僕は思っているのですが、それはこんなところからも窺えます。
こういう「同じコード進行で別の曲にリノベーション」というパターンのことを「コントラ・ファクト」といいます。
コントラファクトという言葉はクラシック用語で、ジャズでは「チェンジ」というらしいです。ほら「リズム・チェンジ」っていうでしょう?
あれは"I got Rhythm " Changeってこと。
ともあれ、是非「コントラファクト」を使ってほしいと思います。
だってそっちの方がかっこいいじゃないですか。
私は町医者なのですが、めまいの患者さんが「あたしメニエル病があって…」という言にしばしば出くわします。が、実は厳密な「メニエル病」はめまいの患者さんの10%もいないはずです。しかし一世代前の開業医は「メニエル病」という病名を多用していました。
多分「めまい症」より「メニエル病」の方がかっこいいからです。
「コントラファクト」にもそういう雰囲気がありますね。
マーク・レヴィンの本にこのコントラファクトの一覧が一章を割いて掲載されています。
構造
ABACの32小節です。(以後作例研究ではABCDパートとします)。インストの場合はほとんどkey in Gですね。
前半(Aパート・Cパート)はメロディのモチーフの結びの音がB→Bb→A→Abと綺麗に下りてゆく。コードはGから始まりツーファイブで全音ずつ下がってゆくという、比較的シンメトリックな構造で、Gの調性にとどまるよりはぐいぐい転調する構造。調性よりはドミナント進行が強調されるので、それゆえジャズマンが好んで題材にする「ジャズジャズしい」曲です。
同じような「ツーファイブで下りてく」曲としては"Tune Up"とか"Groovin' High"が思い浮かびます(Groovin Highは2-5は全音ずつ下りますが解決点が違うので少し違うんですけどね)
Recorda-Meの後半もちょっとおりてくところありますね。
細かいことを言うと、3段目はEbからGmにいきますが、7段目はGmajor にいきます。この辺りの細かい話は作例研究で。
名演
ジャズで最初に取り上げたのはベニー・グッドマンだそうで。
わぁ!トロンボーン・ソロだ。Ray Simsという中間派のトロンボーンの方です(Zoot Simsのお兄さん)。このソロ、きちんとアナリゼしていませんが、ビバップ的ではないソロの特徴がよくでています。こういうの聴くとBebopのドミナント・モーションのソロの作り方がよくわかる。
ビバップではこの曲はカッティング・エッジの曲として定番ではあったようで、この期のほとんどのミュージシャンはHow High the moonかOrnithologyの録音が残っているとか。
コントラ・ファクトのOrnithology。
本家本元のチャーリー・パーカーの演奏。
さすがの演奏です。ちなみにornithologyとは、語源がラテン語。鳥類学というそうで、要するにチャーリー・パーカーの別名、"Bird"を難しくもじったわけです。be-bopの名曲には難しい単語の曲名が多いのですが、ちょっと厨二病感がありますよね(僕はそういうの大好きです)。
極め付けはエラ・フィッツジェラルドですね。
演奏としては15種類以上の録音が残っているし、彼女のフェイバリットナンバーであったようです。逆に名演が多すぎて、後にグラミー賞の「殿堂入り」したけれども、どのバージョン?で物議を醸したそうです。
これは、むしろ管楽器プレイヤーにこそ聴いて欲しいスキャットですね。
アドリブは極言すると鼻歌であるということを証明している。
是非このスキャットを一緒に歌ってみましょう。
脳汁でますよねー。
ボーカルの方は…んー頑張って!
こういうの、やってみたいと思うかどうかで「ジャズ・ボーカル」と「ボーカル」の資質が分かれるような気がします。(ジャズ・シーンには、ジャズボーカルとボーカルの二種類の人がいます)
ジミー・ネッパー
一応トロンボっ子なので、トロンボーンを。
荒ぶったチャールス・ミンガスに殴られて歯を折ったことで有名なジミー・ネッパーです。名前ほど地味ではないと私は思っていますが、この曲では、サックスのGene Quillにキレキレのソロをとらせてサイドに回っています。もー、これあなたのアルバムでしょう?しっかりしなさいよー。
でもネッパーのこのソロも悪くはないですね。
ジョー・パス
ソロ・ギターの金字塔、ジョーパス先生のVirtuosoから。さらっといい感じの演奏。一リスナーとして聴くと、えらく聴きやすいんだけど、真面目に聴くと間然として好きのない演奏だと思います。
How high the moon、Ornithologyは誰しも一度は通る道であるとは思います。自分なりのお気に入りテイクを探してみてください。
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