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バップのマインドマップ (3)

メジャーとマイナー
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話を続けます。
(1)では、バップ的なダイアトニックコードの序列を示しました。
(2)では調性が単一な曲において、バップにおける頻出コードが多く使われていることを示しました。
「ジャズらしい」にはいろいろな要素がありますが、「古典的なモダンジャズ」っぽい演奏ができる人は、このあたりをなんとなくわかっているはずです。

20世紀初頭の商業音楽によってコード進行は発明される

Ken in C/Amの頻出コード
四角で囲った3つのコードが「準レギュラー」のコードです。

補足すると、この「準レギュラー」の3つはバップの専売特許でもありません。
20世紀初頭、アメリカのミュージカルやティンパンアレイの作曲家(今でいうポップミュージックに相当)たちは、商業音楽を短期間で大量に作製するうち、ツーファイブやサブドミマイナー(SDM)など、使いやすく便利なコード進行のパターンを共有するにいたりました。
これらのケーデンスが共通財産となり、今に至るわけです。(コードシンボルが発明されたのは後の話で、これにより現在に至る楽理分析のインフラが整いました)現代のわれわれが「ジャズっぽい」と見なすコード進行の7割くらいは当時の作曲技法によるものです。
(逆に、この時代に共有されていたけど、後代のジャズの世界ではあまりとりあげられなかったコード・ケーデンスもあります)

バップの担い手の功績

では?
チャーリー・パーカーを始めとするバップの担い手は何をしたのでしょうか?

作曲家は「アドリブ」には軸足をおいていません。が、ジャズマンたちは作曲家の作った曲の上でアドリブ・ソロを吹くという形で、曲の二次利用を初めます。
アドリブにおいて、より複雑なフレーズを可能とするようハーモニーを書き換えたりすることもありましたし、もとの曲では想定していない音を使ったりもします。
原曲を脱構築し、換骨奪胎を繰り返し、アドリブソロを発展させる。
ある種「魔改造」を行うわけですよね。
”All the Things You Are”の作曲者であったGerome Kernは、こういうジャズマンの「原曲レイプ」が大嫌いだったそうですが…皮肉なもんですね。
All the Thingsこそが、最もリハモや再解釈を繰り返されている曲なのに。

チャーリー・パーカーはアドリブソロでいついかなるタイミングでも超高速のアドリブフレーズを繰り出します。その際に、この「ドミナント・モーション」の重力を曲の調性から完全に切り離して利用しました。
反応速度を極限まで高め、任意のコードXに対し、そこに解決すべきV-Iを逆算で想定してフレージング。高速でXに解決するという手法をとります。

それはつきつめると2-5そのものの複雑化につながります。
瞬間的な代理コードの挿入、瞬間的なセカンダリー・ドミナント(これはドミナント・モーションの2階建て・3階建てへの建て増し)などでさらにフレージングを複雑にしました。
(厳密にいえばチャーリー・パーカー単独の功績ではないのですが、最も先鋭化した形で示したのがチャーリー・パーカーでしょう)。

はみだし話:オクスリとジャズ

もちろん脳の反応速度を極限まで高めたスタイルは、当時は理解不能で、それを「オクスリ」の効用と見なされたのも無理からぬことかもしれません。

しかし、ドラッグとビバップの関連付けには「黒人がここまで『頭の良い』メソッドを作り出せるはずはない」という差別意識があったのかもしれません。
「黒人は知的には劣等人種」が当時のドグマだったわけで、ビバップという手法にドラッグが欠かせない、という当時受け入れられた俗説は、(意識か無意識下かはわかりませんが)アフロ・アメリカンによって独自に生み出された素晴らしい芸術を不当に貶めるために利用された可能性はあります。

もちろんジャズに限らず当時のアフロ・アメリカンのコミュニティでドラッグが蔓延していたのは事実です。バップのアドリブは必ずしもドラッグが必須であったわけではないはずですが、真相は歴史の闇の中です。

医師としての個人的な推測ですが、バップのような微分的なアプローチを取りうる才能を持つ人は、ある種の発達障害性向があるのではないかと思っていて(ここはエビデンスなしです)、そういう性向の人はドラッグ嗜癖のハイリスク群だったからじゃないかと思います(これはエビデンスがある)。
つまりドラッグとアドリブには因果関係はなく、しかし相関関係はあったんじゃないかと思う。

バップらしさ

コード進行の話に戻します。

例えば、Charlie Parker進行と別名されるConfirmationの進行。
|Em-5-A7|Dm7-G7|Cm7-B7| Bbという3階建ての2−5
こんなのが、バップらしさの真髄ですね。
Miles Davisがモードを「発明」する前夜、バップの爛熟期には、こういうドミナントの繰り返し、ドミナント・モーションの高層建築がよく見られました。"Jordu"とか"Joy Spring"とか"Take Five"のコード進行をみてください。

また、いわゆるオルタードをアドリブでバシッと入れてくる。このへんも、よくある手法かと思います
(Coleman Hawkinsの"Body and Soul"が一番早いかもしれませんが)

Coleman Hawkins "Body and Soul" (1939)

Charlie Parker with Strings" Just Friends" 1949

一言でいうと、曲のもつ「調性」=調の持つ安定感に対して、ドミナント・モーションによる瞬間的な転調(マイクロ転調と私は勝手に命名しています)との拮抗感が、Be-Bopの良さといいますか、スリリングさです。


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半熟ドクター
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