アドリブ研 "But Not For Me"(1)
アドリブを研究するコーナー。一応公式には第3回か。
今回は "But Not For Me"です。
これはジャズ研1年〜2年相当の曲ね。
曲の出自
作曲はGeorge Gershwin。初出1930年。
ミュージカル「Girl Crazy」のために書かれたポピュラーナンバーです。
基本的には「失恋ソング」であり、結婚式に弾いちゃだめなやつです。
曲の構造
ABAB'の32小節の構造。よくあるパターンです。
(リハーサルマークは便宜上A-B-C-Dパートとします)
「歌物基本系」といわれる8段の構造です。特に後段のBとDパートはほぼ定型から外れない形。
問題なのは前段のA,Cパートです。
これはミュージカルナンバーの時代には"Rhythm-Chage"の一部分のようなシンプルなコードがついていました|Ebmaj7-Cm | Fm7 Bb7 |Eb |Eb |
ところが現在ジャズマンがスタンダードとして演奏する場合セカンダリードミナントのF7-Bb7-Ebの形態ですね。青本・黒本、iRealともこの形です。
このスタイルは、明らかにMiles Davisの影響です。MilesがBag's Grooveでとりあげて以後これがじわじわと主流になりました。
Milesってやっぱりジャズマンに「これかっこいいな、真似しよ」って思わせるディテールを作ってますよね(Stella by Starlightとかもそう)。
ことわざでいう「顰(ひそ)みに倣(なら)う」ってやつ。
細かくみると、この "But Not For Me"は、前述した「定型的」と言われた部分さえも、メロディーとコードとぶつかったり、スタンダードブックのコード進行と実際のテイクの乖離も割とある「迷曲」です。
異本が沢山あるので、国語の教科書に載せにくい古文みたいな感じ。
この辺りの細かい話は、以前にも紹介したこのサイトに詳しい。
きちんと掘り下げてゆくと、沼です。ただ、今回は黒本(Standard Bible)に準拠し、この辺りはあまり詳しくは触れない。
名演
金管楽器のフロントマンを想定して、いくつかピックアップしてみます。
(僕がそうなので。他楽器の方はそれぞれのテイクを発掘してください)
Miles Davis
まずは現在の流布しているコード進行のαとなったマイルスのバージョン。
これをトランスクライブ(耳コピ)されてもいいと思います。
"Chet Baker"
個人的に好きなのは、Chet Bakerの"The Touch of your Lips"のバージョン。
後期Chet BakerのSteeplechaseで録音された一連のシリーズです。
But Not For MeはChet Bakerにとって好きな曲だったようで、その他ヨーロッパで数限りなく録音されているライブ録音にも沢山残っています。
キャリア前期のイケメンスターの時にもこの曲やっています。が、後期の、すべてを失い幽鬼のようなボロボロの老残をさらしつつジャジーなフレーズを紡ぐチェットが僕は好きです。
The Bobby Shew Quintet With Carl Fontana
ボビーシュー、カーフフォンタナ。ちょううまい人たちのええ感じの演奏です。
私は好きですが、いわゆる「ジャズジャズ」した演奏。
「新しい音楽の地平を切り開く」的なイノベーティブさはないとは思う。
ここでのカールフォンタナは、めちゃ速いパッセージは目立たず、比較的トランスクライブしやすい。しゃくりあげるようなリップスラーで上行するフレーズとか、トロンボーンらしいベンドとか、らしさ満載です。
John Coltrane
これも有名なテイクですね。
いわゆるコルトレーンチェンジをほどこした大胆なアレンジ。
いわゆる後期の「コルトレーンらしさ」と従来のモダン・ジャズのギリギリの均衡点という意味で聴きやすい演奏だとは思う。これでも。
ただ、まあいわゆる普通のコードワークでアドリブできるようになってから、取り組んでみることをおすすめします。全然別物やからね。
Mario Adnet
一つだけ、リスナー視点で紹介させてください。
Mario Adnetはブラジルの方ですが、ガーシュウィンの曲をやっているこのアルバムの中でのBut Not For Meやっています。
Youtubeにはありませんでしたが、他のサブスクサービスにはあるとは思う。ほっこり癒やし系サウンドです。
ドジャズなんかより、こういう演奏したほうが、モテるんじゃないかと思わなくもないぞ。
(2)以降は作例研究にうつります!
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