くすぶっているジャズ研学生へ
ジャズ研は「研究会」でもなんでもなくて、多くの場合演奏が本義とされる。
このNoteでも演奏のヒントになる記事を書いているけれど、ただ、全員がアドリブする……なんて絵空事。
理想論である。
ジャムセッションに参加しアドリブを楽しめる人なんて、リズムセクションでも30%くらい、フロント楽器だと5%、良質なジャズ研でも15%程度の確率ではないだろうか(ジャズ研って、基本的に、ほったらかしだしね)
では、そうでない人はどうしたらいい?
そうでない人には価値がないんだろうか?
確かにバリバリと演奏する人は、ジャズ研の中で花形だ。
しかし、ジャズを、音楽を愛好する形は、もっと多様であってしかるべきだ。
ジャズ研はジャズを愛好する人の集まり。ある種のコミュニティ。
その中には、君にぴったりの君のやるべき事があるかもしれない。
人の集まるところ、やるべきことはいくらでもあるのだ。
そもそも学業が主。部活なんざあ添え物であることを忘れちゃいけない。
演奏を楽しめるにこしたことはないが、何らかの形で一生音楽を愛好するきっかけになるなら、それで十分。
極端な話、音楽を好きにならなくても、人生において何らかの経験になれば、それでいい。パートナー探しでも、かまわない。
プレイヤーを目指すのは「手段」に過ぎない。
「目的」は自分の人生を豊かにすることだ。
手段と目的の取り違えをしないように。
ジャズ研の中に、ひょっとしたら、演奏以外の、役割があるかもしれない。
自分の演奏が煮詰まっている人がいたら(もちろん練習はしてほしいけど…)
視野を広げてみよう。
Speaker / MC (Master of Ceremony)(司会・MC)
うまい演奏者がライブのMCがうまいとは限らない。
もし君が聴衆に対峙してしゃべるのがうまくて、君が仕切るセッションとかがうまくいくのであれば、コンサートやセッションの専業MCなどに注力するのもいいだろう。
これは、社会にでても重宝されるスキルだ。器楽演奏なんかよりよっぽとつぶしが効く。生涯年収が上向きやすい能力だとは思う。
タモリさんも早稲田のモダン・ジャズ研究会出身ですが、部内でも司会を担当していたそうですよ。
Ambassador・Negotiator (渉外・営業)
友達を作るのがうまかったり、人見知りしないタイプだったら、対バンのバンドメンバー、セッションなどで知らない人に話しかけてみよう。
別の大学の部活、同じ大学の別のサークルや部活と橋渡しをする役など、ひょっとしたら君に向いているのかもしれない。
部活の代表でなくても、こういう人は多ければ多いほどいい。サークルが開かれた状態であると、情報も人的交流も増え、発展しやすいから。
安心してください。ハードルはびっくりするほど低い。
ジャズの店で、上の世代ときちんと交流する学生は驚くほど少ないし、大人でもジャズマンなんて社会不適合者、コミュ障の集まりである(笑)。
「ぼっち・ざ・ロック」というアニメがあったが、ジャズは全員が「ぼっち・ざ・ジャズ」かも。
まずは挨拶をするところから!
営業職にも応用できるしフリーランスは人付き合いはさらに重要。
Writer・Curator・Critic (著作・批評・キュレーター)
演奏は苦手だけれど、文章が上手な人。
自分の好きなジャズ、プレイヤーについて語ったりしてみよう。
それをまとめたり、紹介したり、音楽活動で生まれたさまざまな思惟を何らかの言葉にアウトプットしてみてはどうか。
好きな音源の紹介でもいいし、ライブリポートなどでもいい。
多くのジャズ研では演奏をする人間が幅を効かせているけれども、言葉を発する人間が一人でもいると、そのコミュニティの格がなんとなく上がる。
最近はBlogなどもコストフリーですぐ作れるが、多くのジャズ研のコンテンツが、一年毎にメンバーだけ更新される「立て看」状態なのは残念なことだ。
リスナー道を極める学生がもっと賞賛されてもいいと個人的には思っています。昭和文芸のジャズ批評の伝統が絶えてしまったのは残念なことです。
最近はChat GPTなどAIによる文章生成が完成されつつあるが、あれは既存の膨大なアーカイブから生成されるわけで、ゼロイチで文章を作れるスキルは今後さらに価値を持つかもしれない。
PA (public address) (音響)
ジャズはアコースティック楽器が多いが、ライブに際して当然PA、アンプやミキサーの知識が必要となる。ロックなど他ジャンルの音楽をやっていた人が詳しいことが多い。その意味でギター・ベースが担当している比率が高いような気がする。部内のPA、電気強い人はすごく必要とされますよね。
学生時代にPAに携わった人は社会人になってオーディオ沼にはまる確率が高いというエビデンスもあるとかないとか。
Photographer・Audio/Visual Creator (写真・録音・動画撮影・コンテンツ作成)
動画が作れる、きちんとした写真を撮れる人がサークルに一人いると、サークル内の成果物のクオリティが一段と上がる。昔はあまりこんなこと考えなくてもよかったが、今は適切なアウトプットがプロモーションに必須だ。スマホでもかなりのことができるし、サークルで機材を揃えるメリットは十分にあるだろう。
腹を据えてこれに取り組むと、社会人になっても重宝される。
ま、友達が結婚する際のプレゼン動画を作らされたりとかなんだけど。
部員の演奏風景とか演奏活動を、自分の撮影家としての練習台につかってやる、くらいのエゴ視点で臨んでもいいんじゃないでしょうか。
Facilitator ・ Supporter (支援・応援)
サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」的な存在といいましょうか。
演奏を通じて自己を表現する行為は、基本的に自らを試す行為で、それゆえに傷つきやすい。演奏家を目指す人間はプライドは山のように高いが、ハートはガラスのように脆く、そして了見は猫の額以上に狭い。いつもうまく演奏できるわけでもなく、プライドやアイデンティティはしょっちゅう傷つく。エゴがぶつかると、どうしてもギスギスする。
プロじゃないジャズ活動なんて「イタい」もんである。
そういう青春のぶつかりはどこかで誰かが吸収しないといけない。
コミュニティをハンバーグと考えると、挽肉だけではなくパン粉のような「つなぎ」の存在が必要なのだ。
機嫌良くその場に居る人は、君が思っている以上に、役に立っているのだ。
もし君が、自分の演奏に限界を感じているとしても、ブチ切れたり毒を吐いてないだけでも、コミュニティの平和に寄与しているかもしれない。
ひょっとしたら、他の誰かの救いになっているのかもしれない。
そう思うと、元気がでてきませんか?
ただし、こういうポジションのキャラというのは大人になっても割を食うことも多いので、ほどほどのバランスで。
Budget Administrator / Logistics (予算管理・備品係)
裏方なんですけど、予算管理や物品の管理などを行う人は、ある種の手堅さときっちりさが求められるわけで、これは、人を選ぶわけです。予算管理も、部内の物品の出納管理なども、向いている人は、積極的にやっちゃいましょう。
コツは、自分だけがわかっていて、自分だけが手を出せる状況(属人化)はよくない、ということだけ。リストアップされたものは、例えばGoogleアカウントで共有するなど、誰でも見れて、誰でも操作できる形が望ましい。
全国のジャズ研といわずクラブ活動をしている団体で、いまもっとも使われているプラットフォームってあるのかしら(現役離れて久しいので知らない)。
Manager / Producer / Organizer (マネージャー・リーダー・部長)
演奏者としての能力はともかく、情況を俯瞰するのが得意で、方針を決めて組織をまとめ、人を動かすのが得意な人って、一定の確率でいるわけです。
ジブリの鈴木敏夫、『映像研には手をだすな』の金森さやか的なポジションといいますかね。
こういう人はサークルをまとめる人、バンドをまとめる役割が向いている。
まあ、バンマスとか部長とか。
これは、社会人になっても最も役に立つ能力です。もっとも生涯年収が上がるスキルといえましょう。
私などは、資質はともかく実生活ではこういう役割なので(医療法人の理事長)何が面白いねん、趣味の世界では絶対やらんぞ、と思っているけれど、これをやるにはやはり素養ってもんがあるわけ。
向いている人は、ぜひ真面目に取り組んでください。巷に「リーダーシップ」の本とか経営学の本とかいっぱいあるけど、そういうのを読んだらいい。
あなたの人生にとって損はしないと思います。ムカつくことは多いとは思いますけど。適度に失敗するのもまた結構。社会人になって失敗したら取り返しつかないですから。
ただし、一つだけ注意。資質として向いているのか、それとも単に権力欲があるだけなのかはきちんと見極めよう。
まとめ
ジャズ研に求められるのは、プレイヤーだけではないってこと。
もちろん演奏が、なんだかんだいって第一だと僕は思いたいが、思う存分音楽に没頭してそして花開く人は一握りです。
もし自分がそうでなかったら?
そのときのプランBこそが、人生の面白さなんです。
演奏だけで評価されるべきじゃない。
誰しもなんらかのいいところがある。
大人になって、学生時代を振り返った今、強く思う。
これって、ゼロヒャクじゃなくて、演奏者としては60くらいだけど、動画撮るのは120とか、予算管理とか80くらい、とかそういうグラデーションがあるはず。
演奏者として100、他の能力ゼロなんて一握り。
そういう人は本来音大に行くべきであるんだよね。
いろんな評価軸でみんなのいいところをお互いに認識した方が、きっと楽しい学生生活を送れると思う。それに、こういう演奏以外の他のことをやることで、なぜか演奏もうまくいったりすることさえあるんだ。
エンジョイ!