歌物基本形とは(1)
結論:
1コーラス32小節の「歌もの」といわれる形態の曲には、基本構造が同じものがあります。
この基本形の「同じ部分」と「違う部分」を比較しながら理解すると、曲の特徴をとらえやすく、いろんな曲のアドリブが吹きやすくなると思います。
歌物基本形とは
昔のミュージカルナンバーのジャズ・スタンダードがありますね。
一コーラス32小節。4小節一段として八段の曲。
ABABとかABACとかいいますけれども、そういう形態。
前半16小節、後半16小節の32小節の曲です。
こういう曲、私は「歌物基本系」と勝手に呼んでいますが、こういう曲で共通点が多いことは、みなさんもお気づきかと思います。
"Another You"とか”It Could Happen to You"とか、なんか似てます。
基本的な曲の構造=プラットフォームが共通。
まるでトヨタの提唱するTNGA(Toyota New Grand Architecture)のような話ですね。
もしくは、折り紙。
折り鶴の途中の形「鶴の基本形」といいますが、この形は折り鶴だけではなく、様々な形に発展させやすい共通のフレーム構造があります。
「歌物基本形」を下地にしている曲:
いろいろあります。多分もっともっとあるし、おそらくB級, C級ミュージカルには似て非なる曲が山程あると私はにらんでいます。しらんけど。
It Could Happen to You
There Will Never Be Another You
I'll Close my Eyes
All of Me
But Not For Me
Cute
I Thought About You
In a Mellow Tone
「歌物基本形」のコード進行
では、肝心の歌物基本形とはなんでしょうか?
例示してみましょう。
Key in Cならこんな感じです。
もちろん、この共通構造は最大公約数的なもの。
厳密にこれをすべて満たす曲はむしろ少ない。
ただ、この基本形をたたき台としてスタンダードを考えると、とても理解しやすくなります。
特に、フロントでアドリブを取る場合は、この形式にのっとって、アドリブの練習をすると、効率がよいと思います。
で、実際のスタンダード曲では、この「歌物基本形」との差分を意識しましょう。そうすると理解も早いし効率がいい。
なぜ「基本形」があるのか?
1.作曲者の負荷をへらすため
オリジナリティにあふれた曲を1から10まで作るのは、やはり作曲者にとってもエネルギーを要することです。
でもこうした「型」を意識すれば、Aメロの8小節だけオリジナルな部分を考えたら、あとはなんとかなっちゃう。
8小節キレイに作れたら、あとは、比較的エネルギーを要さずに流れに沿って書けちゃう。
安定して曲を量産するためには、こういうフレームはやはり必要なんだろうなと思いますね。
まあ、現実には、歌詞もあるし、ミュージカルだったら「Verse」の部分も考えなくちゃいけないから、これだけではないんですけれどもね。
コーラスの部分の負荷は減らしておきたい、ということです。
2.結局多くのストーリーは共通の雛形に沿っている
例えば、恋愛映画を考えてみましょう。
ストーリーの導入部は色々です。
主人公の二人が出会い、だんだんと親密になる。
そこにはいろいろなパターンや創意工夫の余地があるわけです。
ところが、その後からエンディングにかけては、それほど大きなバリエーションがあるわけではない。これは勝手な想像ですが1/3くらいで仲良くなり、1/3くらいのところで、誤解によるすれ違いか、恋敵による邪魔が入ったりして、引き裂かれ、最後はどんでん返しのあと、ハッピーエンド。(もしくはバッド・エンド)と相場は決まっています。
そこには、あまり創意工夫や、選択の余地はない。
起承転結がはっきりしている、まあまあベタな王道パターンが存在しているわけです。
スタンダードのコード進行も同じです。
導入部分は様々なオリジナルなコード進行を取り得ますが、中盤からクライマックス、いわゆる起承転結の、「承」「転」「結」という流れは案外、バリエーションを作りにくいものです。鉄板の進行がある。
まとめ:
というわけで「歌物基本形」という基本的なフレームを意識してください。
スタンダード曲に何曲も触れていれば、自然とわかることです。
ことさら独自の「大発見」ではありません。
この基本形には名前があるんじゃないかと思うんですが、ジャズの理論書を読む限りは、あんまり出てこないです。
(ミュージカルの作曲本とかにはあるんでしょうか?求む情報!)
Aメロにも、割と定番な進行はあります。
後述しますが"I'll close my eyes"と、”Another You"は、ほぼ同じ進行です。若干異なるけど"All of Me"もかなり近い。ただ、Aメロのコードの多様性はこれ以外のパターンもかなりある。中にはなかなか技ありな進行などもあります。
Bパート(3-4段目)、Cパート(7-8段目)では、定番と言えるようなベタな進行が多いです。メロディーに合わせて書き方を変えていたり、やはり少しひねっていることもあります。メロディーに合わせてテンションを付記している場合もあるし、コードフィギュアの置き方に癖がある場合もあります。
次章では、そのあたりを比較検討してゆきたいと思います。
一つの曲をなめつくすように掘り下げるのも、大事なことです。
しかし、スタンダードブックの、色々な曲を横断的に眺めて、
「同じところ」と「違うところ」を見比べ、総体として理解する、ということも、面白いし、大事だと思っています。
比較解剖学とか、分類学的なアプローチですね。
もちろん、同じ曲でも、スタンダード・ブックによって表記が違っていたり、そもそもジャズ勢がみている譜面とミュージカルで使われていたオリジナルが異なる、というのも、たくさんあり、コード表記、メロディーは奥深いものです(私もそんなに詳しいわけではありません)。
あくまでフロント楽器が対象で「どう吹くか」という点で論じています。
リズム楽器が、どうサウンドを作るか、という点については、今回は触れません。
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