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歌物基本形とは(1)

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歌物基本形とは (2) 3・7段目
歌物基本形とは (3) 4段目
歌物基本形とは (4) 8段目

Index

結論:

  • 1コーラス32小節の「歌もの」といわれる形態の曲には、基本構造が同じものがあります。

  • この基本形の「同じ部分」と「違う部分」を比較しながら理解すると、曲の特徴をとらえやすく、いろんな曲のアドリブが吹きやすくなると思います。

歌物基本形とは

昔のミュージカルナンバーのジャズ・スタンダードがありますね。
一コーラス32小節。4小節一段として八段の曲。
ABABとかABACとかいいますけれども、そういう形態。
前半16小節、後半16小節の32小節の曲です。

こういう曲、私は「歌物基本系」と勝手に呼んでいますが、こういう曲で共通点が多いことは、みなさんもお気づきかと思います。
"Another You"とか”It Could Happen to You"とか、なんか似てます。

基本的な曲の構造=プラットフォームが共通。
まるでトヨタの提唱するTNGA(Toyota New Grand Architecture)のような話ですね。
もしくは、折り紙。
折り鶴の途中の形「鶴の基本形」といいますが、この形は折り鶴だけではなく、様々な形に発展させやすい共通のフレーム構造があります。

鶴の基本形


「歌物基本形」を下地にしている曲:

いろいろあります。多分もっともっとあるし、おそらくB級, C級ミュージカルには似て非なる曲が山程あると私はにらんでいます。しらんけど。

  • It Could Happen to You

  • There Will Never Be Another You

  • I'll Close my Eyes

  • All of Me

  • But Not For Me

  • Cute

  • I Thought About You

  • In a Mellow Tone

「歌物基本形」のコード進行

では、肝心の歌物基本形とはなんでしょうか?
例示してみましょう。
Key in Cならこんな感じです。

歌物基本形
(このシェーマは、いろいろなスタンダードを継ぎはぎして作りました)

ざっくりと見て、こういう共通のフレームワークです。
1~2段目:いろいろなパターンあり
3段目=|IV△7|IVm7 VIIb7|(もしくは単に IIm7- G7 のこともある)
4段目=「VIm7-II7-IIm7-V7」
5~6段目:1~2段目と同じ
7段目=3段目と同じ
8段目=「IIm7-V7- I」


もちろん、この共通構造は最大公約数的なもの。
厳密にこれをすべて満たす曲はむしろ少ない。
ただ、この基本形をたたき台としてスタンダードを考えると、とても理解しやすくなります。
特に、フロントでアドリブを取る場合は、この形式にのっとって、アドリブの練習をすると、効率がよいと思います。
で、実際のスタンダード曲では、この「歌物基本形」との差分を意識しましょう。そうすると理解も早いし効率がいい。

なぜ「基本形」があるのか?

1.作曲者の負荷をへらすため

オリジナリティにあふれた曲を1から10まで作るのは、やはり作曲者にとってもエネルギーを要することです。
でもこうした「型」を意識すれば、Aメロの8小節だけオリジナルな部分を考えたら、あとはなんとかなっちゃう。
8小節キレイに作れたら、あとは、比較的エネルギーを要さずに流れに沿って書けちゃう。
安定して曲を量産するためには、こういうフレームはやはり必要なんだろうなと思いますね。
まあ、現実には、歌詞もあるし、ミュージカルだったら「Verse」の部分も考えなくちゃいけないから、これだけではないんですけれどもね。
コーラスの部分の負荷は減らしておきたい、ということです。

2.結局多くのストーリーは共通の雛形に沿っている

 例えば、恋愛映画を考えてみましょう。
 ストーリーの導入部は色々です。
 主人公の二人が出会い、だんだんと親密になる。
 そこにはいろいろなパターンや創意工夫の余地があるわけです。

ところが、その後からエンディングにかけては、それほど大きなバリエーションがあるわけではない。これは勝手な想像ですが1/3くらいで仲良くなり、1/3くらいのところで、誤解によるすれ違いか、恋敵による邪魔が入ったりして、引き裂かれ、最後はどんでん返しのあと、ハッピーエンド。(もしくはバッド・エンド)と相場は決まっています。
そこには、あまり創意工夫や、選択の余地はない。
起承転結がはっきりしている、まあまあベタな王道パターンが存在しているわけです。

スタンダードのコード進行も同じです。
導入部分は様々なオリジナルなコード進行を取り得ますが、中盤からクライマックス、いわゆる起承転結の、「承」「転」「結」という流れは案外、バリエーションを作りにくいものです。鉄板の進行がある。

まとめ:

というわけで「歌物基本形」という基本的なフレームを意識してください。
スタンダード曲に何曲も触れていれば、自然とわかることです。
ことさら独自の「大発見」ではありません。

この基本形には名前があるんじゃないかと思うんですが、ジャズの理論書を読む限りは、あんまり出てこないです。
(ミュージカルの作曲本とかにはあるんでしょうか?求む情報!)

Aメロにも、割と定番な進行はあります。
後述しますが"I'll close my eyes"と、”Another You"は、ほぼ同じ進行です。若干異なるけど"All of Me"もかなり近い。ただ、Aメロのコードの多様性はこれ以外のパターンもかなりある。中にはなかなか技ありな進行などもあります。

Bパート(3-4段目)、Cパート(7-8段目)では、定番と言えるようなベタな進行が多いです。メロディーに合わせて書き方を変えていたり、やはり少しひねっていることもあります。メロディーに合わせてテンションを付記している場合もあるし、コードフィギュアの置き方に癖がある場合もあります。

次章では、そのあたりを比較検討してゆきたいと思います。

一つの曲をなめつくすように掘り下げるのも、大事なことです。
しかし、スタンダードブックの、色々な曲を横断的に眺めて、
「同じところ」と「違うところ」を見比べ、総体として理解する、ということも、面白いし、大事だと思っています。
比較解剖学とか、分類学的なアプローチですね。
もちろん、同じ曲でも、スタンダード・ブックによって表記が違っていたり、そもそもジャズ勢がみている譜面とミュージカルで使われていたオリジナルが異なる、というのも、たくさんあり、コード表記、メロディーは奥深いものです(私もそんなに詳しいわけではありません)。

あくまでフロント楽器が対象で「どう吹くか」という点で論じています。
リズム楽器が、どうサウンドを作るか、という点については、今回は触れません。






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