なぜジャズトロンボーンのソリストは育ちにくいのか(1)
私はコンボやセッションを主戦場とするトロンボニストです。
ジャズ研学生とかのレベルでは(プロはしらん)フロント楽器の方がリズム楽器よりも仕上がるのに時間がかかるということを以前書きました。また、そんな楽器群のなかでもトロンボーンは際立って時間がかかることも。
アドリブをきちんととれるトロンボーンの人ってすごく少ない。
楽しんでアドリブを演奏できるレベルの人はもっと少ない。
この構図は私の観察しているここ30年ばかり変わっていません。
いったいなぜなんでしょうか?
むずかしい
端的にいって他の楽器にくらべてトロンボーンのアドリブは難しい。
プロでもトロンボーンのソリストは全楽器の中ではマイノリティです。
トロンボーンは音を変えるのにスライドを用います。
速いフレーズの際にはスライドを素早く正確に動かし、そして(むしろこっちが大事なんですが)すべての音をタンギングする必要があります。
これがトロンボーンに速いフレーズが難しい理由です。
バップ以降のジャズでは細かいフレージングがどうしても要求されます。
トロンボーンにはそれはなかなか難しいわけです。
(バップ以前には、トロンボーンはメロディ楽器の花形の一つ。トミー・ドーシー、ジャック・ティーガーデン等人気奏者も多くいました)
例えばパーカーの曲は、テーマを吹くことさえもトロンボーンには難しい。
アドリブは、いわずもがなです。
うまくなるのに時間がかかる
きちんとした音を出すのに、割と時間がかかります。
ドレミファソラシドをわりとちゃんと吹く、それだけのことでさえ、一年ではなかなか形にならない。
大学ジャズ研のトロンボーン、ギターやドラムやサックスは全くの初心者から始める人もそれなりにいますが、トロンボーンはかなり少ないですね。
YAMAHAの「大人の〜教室」みたいなやつをみてください。トロンボーンの教室、めっちゃ少ないです。確かにドレミファソラシドに一年以上かかるような楽器、大人になってから趣味でやりたくないわね、とは思う。
しかしホルン・オーボエとかはそもそも教室自体ないことを考えると、まだ恵まれているのかも…まあポップスにでてくる楽器の中ではもっともレッスン需要が低い部類であることは確かですね。
楽器経験年数の問題
というわけで、ジャズ研のトロンボーンは中高もトロンボーンやっていた人の比率が高いです。トロンボーンをやるきっかけは、鼓笛隊や吹奏楽部の方が多いですね。
で、トロンボーンは、楽譜が割とシンプルだったりするので、ピアノなど他の楽器経験のない方が割り当てられやすい傾向があります。
もちろんピアノ経験者のトロンボーン奏者もいますが、楽譜の難易度の高いフルートやサックスに比較してトロンボーンのピアノ経験者比率は少し低い傾向があります。
そして、3歳からピアノを習っていた人はまあまあいますが、3歳からトロンボーンを習っていた人はほとんどいません。
映えない
トロンボーンは音が低くて、フレージングもモゴモゴしがちです。
ピロピロ速いフレーズもでないし、音域も案外狭いという楽器の制約があります。音色はいいんですけどね…。
一言で言うと地味です。
なのでアドリブソロでスポットライトが当たる時も今一つぱっとしません。
サックスやトランペットのソロと並んで吹いたりすると歴然とします。
映えません。
(正確にいうと、相当うまくならないと、映えない)
アドリブ以外の「仕事」に流れる可能性
トロンボーンの強みは音色が混じりやすいこと。
それゆえにハーモニーを形成しやすいことです。
したがって楽器の特性としてはソロより複数集まってハーモニーを奏でるアンサンブルむきです。
ビッグバンドではトロンボーンはサウンドの中核を占めていますし、ホーンセクションでもトロンボーンは高すぎず低すぎずのちょうどいいポジションです。
それゆえ、そういう需要は一定数あって、そっちでお声がかかることも多い。そうするとアドリブを突き詰めなくてもやる事がたくさん。
という状況になりがちで、アドリブの修練をなおざりにしがち。
マインドの問題
楽器の特性(上述)から、トロンボーンは周りの音を聴いてハーモニーを形成するようなことに強みを発揮します。
そういう調和を重んじるタイプのが多いわけで、アドリブソロのような、エゴと向き合って表現する行動をそもそも志向しない可能性もあります。
まとめ
トロンボーンのアドリブはハードルが高いことを長々と説明しました。
いわゆるお店のジャムセッションでは、これは実感しにくい。
そういうとこにはそこそこ吹ける人しか来ませんから。
サックスと比べると「もっさりしているな…」という印象を受けるかもしれませんが、それたぶんトロンボーンの中ではだいぶ上手い人ですよ。
ジャズ研とかビッグバンドのイベントとかに行くと発展途上のトロンボーンソロを見られます。中にはさすがに素人目にもキビしいものもあると思いますけど、それでさえ、かなり努力をした成果なので、みなさん暖かくみまもっていただきたいと思う。
トロンボーンの人だってできるならアドリブはやってみたいと思っています。でも、ソロが形になる段階まで到達する人はすごく少ない。
敗北感とともにアドリブを断念する人はとても多いということを知っておいてください。