譜面をみないこと(2)
続きです。
(1)ではコードを丸暗記するのではなく、コードのコンテクスト(文脈)を記憶しましょう、という話をしました。
では、コンテクストってなんやねん、って話です。
ももたろう
昔話に「ももたろう」というのがあるじゃないですか。
さすがに21世紀の若者も、ももたろうは知ってるよね?
ネットにあるももたろうの昔話を引用してみます。
(知っていると思うので読み飛ばしてもらってかまいません)
これ、1000字あります。ながっ!
もちろんこの1000字を丸暗記して一字一句間違わずに語るなんて、無理だし、無駄です。
だけど、読み原稿なしで「ももたろう」の話を子供に話すこと、出来ませんか?出来ますよね?
「昔話」はそもそもそうやって囲炉裏端で語られ、口伝されたもの。
記憶しやすいストーリー構造なのです。
だから「ももたろう」のストーリーはなんとなくですが、覚えている。
「ももたろう」の昔話はなんとなく自分の言葉で再現できるでしょう?
細かいディテールとかセリフは適当に処理して。
これが「コンテクスト」です。
曲のコード進行も、書かれているコードを一字一句丸暗記するのではなく、ポイントポイントを押さえる、あとはなんとなく補完する。という形で覚えることが、自由なフレージングにつながるわけです。
ポイントとディテール
ポイントを押さえるといいました。
具体的に、「桃太郎」の、押さえるべきポイントを書き出してみます。
最初:おじいさん・おばあさん。桃、桃太郎
鬼退治へ出発:キビ団子、犬、猿、キジ
鬼退治:鬼ヶ島、船、鬼、戦う、勝つ、財宝
このへんの事物が間違っていたら、アレ?となりますやん。このポイントは「ももたろう」を「ももたろう」たらしめるアイデンティティです。
逆に、この事物さえ押さえておけば、あとは、現代語調、講談師っぽい口調、落語家っぽい口調、昭和のNHKアナウンサー口調、どのようなスタイルでも「ももたろう」は語られ得るわけです。
昔なら清水義範、最近なら星井七億さんがそういうのやってましたね。
すいません、話がそれました。
ただし「大きな流れ」「押さえるべきポイント」だけでなく、「ももたろう」特有の言い回しが存在します。ディテール=細部になりますが。
「むかーしむかーし、あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました」
「おじいさんは、山へ柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました」
「大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました」
「♪お腰につけたキビ団子、一つ私にくださいな」
割と耳に残るディテールですが、「神は細部に宿る」というやつで、この辺りも押さえておけば、ぐっと「ももたろう」らしくなる。
ただし前述のポイントほど必須なわけでもありません。
(現に、参考として引用した「ももたろう」では「ドンブラコ」は書かれていませんでした)
大まかな流れとポイント、あちこちのディテール、この両者を覚えておけば「ももたろう」を再現できるわけです。
まとめ
(1)で述べたこと、ジャズの話に戻ります。
コード進行を見ながらアドリブをするのは、「ももたろう」の全文を見ながら(多少自分の言葉になおしたりもしながら)話すようなものです。
間違いは起こりにくいかもしれないが、自分の言葉ではない。
一方、ポイントとディテールを押さえた上で、自分の言葉で「ももたろう」を再現する。これが「コンテクストを記憶する」ということです。
譜面のコード記号を見ずにアドリブするのは、これに近い。
圧縮再現して記憶する。
コードの「コンテクスト」を押さえる。
自分の言葉でアドリブをするには、それが大きな助けになるんじゃないかと思います。