オブリ研第2回 : オブリガートの総論
では、実際にオブリガートを作っていきましょう。
想定されるシチュエーションは…
コンボで演奏。リズムセクションはピアノ+ベース+ドラム
サックスもしくはトランペットが主旋律を吹いている
トロンボーンでオブリガートを吹く
という状況で、オブリガートを作っていくことにします。
オブリガードは慣れないと難しかったり、メロディーを邪魔しがちですが、いくつかの原則を踏まえて作るとうまくいきやすいです。
原則1:メロディーから離す
オブリガートはメロディーの引き立て役です。メロディーが輝くように、そしてメロディーの邪魔をしないようにすることが、もっとも大事。
ほら、ボーカルの邪魔をしてピロピロ吹いてるサックス!ぶっ殺すからな!
メロディとタイミングを離す
メロディにはかならず息継ぎの隙間があります。これをデッドポイントといいますが、オブリガートはここを目指して作るのが基本です。隙間を狙う。隙間産業。そうすると邪魔になりにくい。また、そうすると、結果的に、オブリも聞いてもらいやすい。コール&レスポンス、みたいな感じにもなりやすいです。
ただメロディーメイカーの中には、自分が主旋律吹いていてさらにメロディとメロディの間の本来デッドポイントにスラスラスラっとオブリガートをフィルインしてくる人が中にはいます(サックスとかに多い)。
Charlie Parker with Stringsの"Just Friends"とかそんな感じですね。
その場合はオブリは吹かないか、白玉(吹き伸ばし)でバッキングに逃げましょう。そしてその人のことをちょっと嫌いになりましょう。
音価(音高)を離す
メロディと全く同じ音がぶつかると望ましくないことが多いです。少し離すといい感じになります。ベタなのは三度か六度ですが、もちろん例えば4度5度離すのもありです。
例えばボーカルのメロディーに対して全く同じ音価でメロディーを吹くと「カラオケ」状態になりますね。ボーカリストに対する最大級の侮蔑行為なので注意してください(ロストしてる時はノーコメント)。
形を離す
上述したようにフレーズをパラパラ吹くようなタイプであれば、その対比は吹き伸ばし(白玉)でゆったり感を演出する、ということになります。
これだと重なっても邪魔になりません。
また、メロディーが上行形である場合、オブリは下行形にするというのもメロディとの対比の一つのやり方です(もちろん上行に上行で返すのもアリです。正解とか不正解とかではありません。何も考えずにやるのではなく、意識して「選択」すればいいです。)
コードトーンから伸ばしの音を作って、そこに少し細かいフレーズを刻む、という作業も、オブリガートを作りやすいですね。絵を描く時に、まず大まかにアタリを取って、そのあと細かく書き込んでいくと思いますが、そんなイメージです。
吹かない
二管楽器でやっているのであれば、片方がメロディー(「吹く」)と考えれば、「吹かない」というのも対比ではあるわけです。
究極のシンプルではありますが、空白は効果的に使えば絶大な効果を発揮するものでもあります。
これらの原則は当然組合わせて考えてください。
オブリガートには無限の選択肢があります。
音高をほぼ同じにしてテーマメロディーの隙間に同じようなメロディを入れると、「輪唱」ぽくなります。
テーマメロディーと同じリズムで、音高を変えたフレーズを吹く。これはいわゆる「ハモリ」ですね。ポップスとかだとよくでてきます。
原則2: ドラマを作る
オブリガートは、メロディの合いの手だけではなく、バックサウンドの一員としての性格も持っています。
なので、テーマの起承転結に貢献することも、結構大事です。
後半1/3位のところに盛り上がりを設定する。そうすると前半は敢えて控えめにするだけで、テーマの構成美を演出することができます。
単純なやり方では、A-A-B−Aの形式で、最初のA-Aは全部休んでいてBメロになってはじめて参加する、でもいいわけです。
またA,B,C,セクションにてサウンドのスタイルを変えて、サウンドをカラフルにすることも念頭に置いてください。
サウンドをカラフルに
もう一度いいます。オブリガートの正解は一つではありません。
さまざまなアプローチがあります。色々なパターンを組み合わせてテーマをカラフルに、ダイナミックに演出するように心がけましょう。
たった一人の「ホーンセクションアレンジ」です。
ポイントは、上記の原則をふまえて「構築的」にすること。
8小節とか16小節とか一定の範囲では、一定の原則を保って吹きましょう。
そしてその範囲が変われば、原則をガラッと変える。
こうしたサウンドの変化を意識的にオブリガートを作りましょう。
もちろん完全にメカニカルだと面白くないので、多少ほころびも交えつつ。
ポップスの曲を聴いていると、気づきが得られることが多いです。
特にホーンセクションの多いバンドとかは、フレーズの面でもハーモニーやカウンターメロディーの入れ方でも、とても参考になります。
当世だと、星野源、スカパラ、レキシとか。
ちょっと昔のものだとタワーオブパワー、アース・ウィンドアンドファイヤー、ジャミロクワイ、オザケンなどは僕の教科書です。
ジャムセッションでの注意
結構大事なことですが
ジャムセッションなどでは、一人がオブリガートを入れていると「あ、そこ吹いていいんだ」と加わってくる人が少なからずいるんですが、これは基本的にめちゃくちゃNG行為であると思ってください。死刑!
もちろん、A-A-B-AのAメロはリズム楽器がオブリをいれ、Bではトロンボーンがオブリをいれる、とかはOKです。同時に一人、ということです。
なので、複数がオブリ吹きたければ、場所で分担すればいい。
けど、上述したようなことをやっちゃう人は基本的に「おしゃべりクソ野郎」で、そんな美意識も譲り合い精神もないので、まあ大体「悪貨は良貨を駆逐する」になりがちですね。終わったあと心ある人同士で「あの人クソだったねー」とdisりましょう。
トロンボーンはオブリガートを吹こうとしてもピアノやギターのコード楽器や、他のフロント楽器にオブリガートをかっさらわれてしまうことはよくあります。基本的にトロンボーンって舐められてますからね。
カオスなセッションだと、自分の権益を確保するために、最初の8小節、ほとんど吹かなくてもいいなと自分が思っていても、ほんのちょっと入れて、「吹かへんのとちゃうんやで、おさえてるんやで」という意思表示を示すということをしたりします、僕は。「忍法昼行灯の術!」
あとは「楽器は構えてオブリガートをとっているんだと主張するけど、吹かない」とか。
トロンボーンはいろんな面で他の楽器に劣っていることが多いけど、いわゆる「キューだし」だけはやりやすい楽器で、他の楽器に見えやすいので意思表示しやすいんですよ。
ま、夜も深まって酒精度の高いセッションとかだったら、八小節ごとにばっちり楽器構えて、さあ吹くぞ、やれ吹くぞという構えをみせて、吹きそうだけど結局吹かない。
「結局吹かんのかい!」と笑いをとることも可能ですが、真面目なおじさんとかには怒られちゃうのでご注意を。
まとめ
オブリガートは対旋律でもありますが、バックサウンドの一人でもあります。
大事なのは「構築的に」サウンドに関与することです。トロンボーンという楽器はサッカーでいえばMF的な感じで切込隊長というよりはサウンドを冷静に見極める役に向いています。
ジャムセッションにおいては、多少「汚い手」を用いないとサウンドを綺麗に保つことはできません(ほんまかいな…)