読書記録1冊目。コントラストが繊細なチェスのお話
読んだ本
小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」文春文庫
あらすじ
大きくなりすぎて、デパートの屋上から降りられなくなった象に思いを馳せた少年。バスの中で暮らす大きなマスターと出会ったことで、チェスの世界に足を踏み入れた。
そんな主人公が、人形の中でチェスをし、白と黒の盤面の下で、繊細な詩を紡ぐ物語。
感想
チェス盤の白と黒を思わせるコントラストが繊細で心打たれた。
大きいと小さい、表と裏など、印象的な対比が連なって、繊細な物語を作り上げている。
例えば、冒頭では、デパートの屋上に連れてこられた小さな象が、大きくなりすぎて屋上から降りられなくなったエピソードで、主人公は大きくなることへの恐怖を覚えた。
そんな少年の唯一の"友達"は壁の隙間に入り込んで出られなくなったミイラという小さな幽霊だ。
チェスの世界にのめり込むきっかけとなったマスターは、バスの中で暮らす大きな男だ。一方主人公は、11歳で成長が止まったかのような小さな体をしている。
マスターと純粋にチェスを楽しむ少年は、チェスを道具に賭けをする大人と対戦をしてしまい気まずい思いをした。
しかし、そんな主人公が所属していたのは名誉ある「パシフィックチェス倶楽部」という表の倶楽部ではなく、「パシフィック海底チェス倶楽部」という怪しげなチェスが行われている倶楽部だ。
チェス倶楽部で出会ったミイラの生写しのような少女は、指先に乗りそうなくらい小さなチェス盤が印象的だったと語るが、その後人間チェスの駒として盤の上に立たされた。
各所に散らばる対比が物語の構成を支えていて、惹き込まれていく。