地図を見る夏の旅。
先日、近所のロシア雑貨店で古い地図を買いました。以前からお店の壁に飾ってあるのを見ていて。実は下の写真の動物マトリョーシカも、今は我が家にあるんだけど…
緑の壁の右手上方に飾ってあったのが、この地図。(家で撮影)
他にも折りたたんだ状態の地図がいくつか売られていたのだけど、たまたま壁にポスター風に飾ってあったこの一枚が、どこか絵本の1ページのようで好きだな、と。
もともと、道路や鉄道や川などが血管のように入り組んでいる情報過多なものは目がチカチカするので苦手なのだけど、この地図はすっきりしていて、しんどくないどころか、間延びした感じも心地よい。最近あまりにも暑くて(もちろんそればかりではない事情で)、旅に出かけられる状況でもないので、涼しげな海の色とヨットや船のイラストを眺めて、この夏の思い出にしたいと思います。
ロシア語で書かれていて読めないので、世界地図➡︎ロシア付近をネットで見てみると…
出典:Accurate Vector World Map
パズルのピースを探す要領で探して、クリミア半島だと分かりました。地図のイラストを見てみると…下の画像で大きく目立っている都市は「シンフェロポリ」のようです。
鉄鉱石が採れたりぶどう果樹栽培(ワイン生産)が盛んな様子が見て取れて、遺跡や教会もあって、海岸の水着の人たちの様子から、ウィキペディアで紹介されているようにリゾート地として親しまれているのがイメージできます(この地図は1966年のもの)。ここ数年、ニュースでよく耳にしていた「クリミア情勢」という、特にロシアとウクライナとの関係から感じる不穏なイメージとは違って、地図一枚でぐっと近く感じることができるものですね。
ただ、前から家にある「世界地図モノ」を見直すと…あれ?
黒海とクリミア半島がない。
これ、ずっと大好きで長年部屋で「埃除けの布」として愛用中ですが、地図の輪郭がかなり「ざっくり」していて、アフリカとアラビア半島の距離〜!とか、標準的な世界地図と見比べると「おや?」と感じますね。今までクリミア半島のことを考えたことがなかったんだなぁ私は…ということも。
世界地図といえば、昔の動物図鑑(1973年発行/小学館)に載っているものも、よく眺めます。あれ、この地図、太平洋が狭い…けど、黒海らしきものを発見。
クリミア半島は、ここだ。
世界地図といえば、こんな絵本が家にあって、それぞれの国、地域の文化や産業などが伺えて面白いです。(『ちずでぐるり!世界いっしゅうえほん』2017/PIE International)
本文p.21にクリミア半島が載っていました。(目立たせるため他の部分を薄く加工しています)
少し脱線しますが、地図といえば、昔、文具のギフトをいただいた時の包装紙をとっているんですが、それがこれ。よく見かける、古地図柄です。
綺麗だし、「いつか仕事の参考になるかも」くらいの軽い気持ちで保存していたんですが、今回ついでなので検索してみたら、包装紙の販売のサイトで、似たような地図が「オランダの地図製作者によって1570年頃に作成されたもの」と紹介されていました。さらに検索を続けると、放送大学附属図書館のデジタル貴重資料室のサイトの中に、アブラハム・オルテリウス(書籍商兼地図描き)の東インド図があり、やはり私の手元にあるものと似ています。上の画像で包装紙のリボンがつけてある下に見え隠れしている紋章については、同図書館所蔵の地図(下画像)の説明文によると「この地域にポルトガルの影響が及んでいることは、左上のポルトガルの盾形紋章に現われている」とのこと。
ただ…私は包装紙を20センチ幅でカットして保存しているので、日本が入っているか不明なのですが、元の図を見ると…日本が妙な形状になっています。放送大学附属図書館のサイトでは、ヨーロッパで制作された日本地図が多く掲載されていて興味深いので、よかったらぜひ。
さて、一旦世界地図から離れて、先に画像を載せた動物図鑑の日本地図をみてみます。
私が日本地図(てしごとMAP)を作る時もそうだったのですが、日本全体をスペース内に効率よく収めようとすると、このようなレイアウトになるんですね。でも、うちの店で、この日本地図を小学生くらいのお子さんのために、と買っていかれることもあって、「これでいいのだろうか」と。それに、動物図鑑と比べたら分かるんですが、私の地図の方(下画像)には佐渡がない。おそらく「三角だるま」に隠れてしまったものと思われます。
それで、「しおり」を作る機会があったので、縦長の形状なら日本地図を現実に近い位置関係で配置できるのではないかと思ってやってみました(下の画像)。でも結局、本に挟むサイズ感、販売用の袋に入れる際の高さや幅、を考えて…やはりアレンジしてしまった。
北海道を縮小+沖縄を裏面に配置。そして北方4島は入らず…(佐渡はここで無事に復活するも、伊豆諸島その他の小さな島々は入らず…)。地図をモチーフに使うのは面白いのですが、なかなか難しいです。各諸島を入れる入れないは、例えば台風災害のニュースなどがあった時に、それが日本のどのあたりなのか、イメージできるだけでずいぶん違ってくるのではないかと…
続いて、自分のお店に展示している地図、その1。
四国のお遍路道中図(非売品)は、母がお遍路の時にどこかでもらってきたもので、上に載せた赤いバンダナと同様、すごろくっぽいところがお気に入りです。右下の額の右側の地図は襟裳岬で、昔の観光ハガキセットの袋についていたもの。
地図その2。万博の会場のガイドマップ。小ぶりのレジャーシートくらいあるので、折りたたんで表紙を見せる形で飾っています。ご近所の方が、実際に1970年の日本万国博覧会へ行った時のものを「このお店に合いそうだから置いてみてください」と貸してくださって、うちは買取や委託販売をしていないので一旦お預かりして展示している形です。全体図を撮るには廊下に広げないといけなかったくらいに会場広い〜
太陽の塔が顔を覗かせているエリア。いろいろ見ていると細かくて楽しい。
いやぁ、こんな細密な絵を描くのって、大変だなぁ。見ているだけで気が遠くなる…
今回載せた地図以外にも、『ナルニア国物語』シリーズの冒頭に掲載される、お話ごとに登場する国や地域の地図(A.オルテリウスの地図のイメージに近い)だとか、こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』の巻末に添えられた、爆心地と主人公の家や勤め先、同僚の家などが書き込まれた地図、松本清張の推理小説で失踪した夫の行き先や手がかりを追った地図など…(清張の小説だけは今現物が手元にないので想像です)、物語を読むとき、それが実在の場所かどうかはともかく、地図があるかないかでずいぶんイメージが違うものですね。
引っ越してきて、初めて暮らす県の形状や周辺の府県との位置関係を知りたくて、また、自分がお店をしている界隈のガイドブックを手作りしようと思い立ってからは、同じ地域の古地図や様々なガイドマップ的なものも見ているうちに、地図って生活や旅には絶対欠かせないものなんだな、何しろあるとないとでは「出会い」(店、景色、人、コト)の数が大きく違うよな、と実感するようになりました。
とりあえず初めの頃に部屋に貼っていたのは、ならまちの「吉田蚊帳」さんで買った、古い地図(プリント)でした。画像はその一部。
同様の地図はネット上で高精細画像を確認できます。下の画像は国土地理院のサイトの「古地図コレクション」に掲載されているものです。
では、自作のガイドブックに入れた地図について、少しご紹介します。
このガイドブックは奈良市の「きたまち」と呼ばれるエリアを紹介したもので、そもそもそれって奈良県の中のどこなの?ということがわからない他府県の方にも「大仏さまのおられるあたり」「鹿がたくさんいるあたり」「阿修羅像がおられる興福寺の近く」ということと、「奈良駅」からどのあたりかを伝えれば、ある程度イメージしてもらえるのかなと。
そこでまず冊子をめくってすぐに、「奈良駅」(近鉄とJR)周辺の広めの地図を載せて、【この冊子では「青い点線で囲んだ部分」を扱う】ことを伝えました。ただ、私の失敗(の1つ)は、この最初の地図に鹿の絵(どの辺りにいるか)を入れ忘れたことです。
実際にはざっくりこんな感じ(下の画像)になります。小さく鹿を入れたのは「時々出没するあたり」で、他は「しょっちゅう目にする」エリアです。きたまちは住宅地なので、私などはポストに手紙を投函しようと家を出て数歩のところで鹿の群れに会うことも時々あって…その不思議さが地図で伝わるといいのですが…ちなみに、東大寺より東(地図では右側)、春日大社方面や若草山に鹿はもっともっといます。
ここで、先ほど紹介した「和州奈良之図」(国土地理院のサイトの「古地図コレクション」から)を縦にして、この奈良町の地図に重ねてみます。
下の画像は、『和州奈良之図』に筆者(kum)が加工したものです。青い点線で囲んだところが、ガイドブックで扱った「きたまち」と呼ばれているエリアになります(正確性には欠けると思いますがご了承ください)。
江戸時代に奉行所だったところが、女子大になっているのがわかります。参考までに、私の店(ハニホ堂)の位置も小さく載せてみました。
私が「たまたま」引っ越してきたのがこの辺りで、「当初はごく普通の住宅地だと思っていたけれど、散歩などをしているうちに立派な塀や武家屋敷の名残があったり、見事な蔵があることに気づいたり、路上で鹿に会ったり、界隈に古民家を利用したお店が多くて嬉しくなったり、昔は川だったところを埋めた道に、橋の面影が残っているのを見たり(ブラタモリ的な目線で…)して、それでこの町の良さをなんとか友人や身内にだけでも伝えたいと思ってガイドブックを作ることになった」、という経緯を、この古地図と重ねることで少しはお伝えできればと思います。ガイドブックには紙面の都合上、この古い地図を載せることはできなくて残念です。
その後、本文中にはお散歩ルートを紹介するすごろく風のページがあり、次にお店や風景などの写真中心の見開きページを挟んだ後、終盤に付近のお店を紹介する地図を掲載しました。これは最初に載せた全体地図と同じ色合いにして、青い点線で囲まれた部分を拡大したことを伝えられたら、という意図があったのですが、ごちゃついて分かりづらいかもしれません。
小さな冊子なので少しでもすっきり見せるため、通りを結構端折ったところ、ガイドブックをもとに私の店を訪ねてくださる方から「一本隣の通りを歩いて来てしまって迷いました」などと伺うことも…正確さと見やすさ(情報量)のバランスって難しいです。ただ、ガイドブックの目的はお店の宣伝ではなく、あくまでこの界隈をふらふら〜っと散歩して「あみだくじ」のように進んで何かを見つけて欲しかったので、迷うことも楽しんでもらえたらと思っています。
ちなみに、冒頭で紹介したロシア雑貨のお店は、c-2の位置にある「マールイ・ミール」さんでした。冊子でも同じ店内写真を掲載しています。
今、感染症拡大の問題に加えて猛暑の影響も大きく、鹿までも木陰でぐったりしているこの頃は「この先どうなっていくのかなぁ…」と不安になるのですが、私がクリミア半島の地図をたまたま気に入って買って、それで「どんな所なんだろう」と調べてみて、現地の人はどんな暮らしをしているのだろう、旅には行けないけど今度その地方で作られたワインをぜひ飲んでみよう、などと思っている感じに似て、遠くの見知らぬ誰かだったり、すぐ近くにいるけどそんなこと気にしていなかった、という人にも何かのご縁で面白さが伝わるといいなと思います。
ところで私はガイドブックを作る時、特に自分の足で歩いて確認したお地蔵さんの位置の詳細を再確認するために、何度Googleストリートビューで仮想散歩をしたことか。その都度、細い路地には入れずに「うっ、行き止まりか。やはり現実の散歩には勝てないぜっ」と勝ち誇るような、不思議な気分になりました。
そんなこんなで、見知らぬ土地の地図を買った記念「地図を見る夏の旅」という名の大人の自由研究、おしまい。