見出し画像

トラブル

ふいに、あのひとのことを思い出した。

そういえば、少し前のエッセイに「いいね」をくれていた。
どの作品だったかは、覚えていない。
でも自分では、「よくないやつ」とか「書くべきじゃなかったかもしれないやつ」の狭間で、自信がない作品だった。
あなたのアイコンを見つけたとき、肩を抱かれたような気分だった。

どうしているかな、と思ってアカウントを探した。
そしてもう、あなたはどこにもいなかった。

店の奴の噂じゃ 彼女はちょっとトラブって
どこかへ消えたとさ 結末はそんなもの

SMAP "Trouble"

今の時代だったらさ、彼女のトラブルだってわかっちゃうんだろうなァ。
そんなエッセイを、書いたばかりだった。
どこかへ消えてしまうことは、難しいと。

きっと見つけられる。
共通の知人がいる。
DJネームを知っている。
変わらずバンドをやっている。
そうしたらきっと、また会える。

どうして、そんなふうに思っていたのだろう。
でも、ほんとうにそう思っていた。
この世にいる、会いたい人には会えている。
久しぶりに手紙を書いている。
「住所を教えて」と言ったら、みんな快く教えてくれた。

頻繁に会う友達は多くないかもしれない。
でも、寂しくはない。

だからきっと、また会える。
そして、消えてしまうことはきっと、難しい。

そのはずだった。

でもそれは、共通の知人がいたり、何度も顔を合わせたことがある人に限る。
という大前提が、すっぱり抜けていた。

消えられる。
一定距離以上の関係値ーーーそれは浅いとか深いとかじゃなくて、物理的な距離感がなければ、簡単に消えることができる。
わたしだって、エッセイを書く”松永ねる”しか知られていなければ、すぐに消えられる。

わたしはわたしで、”松永ねる”を生かし続けてきた。
そして、生かさなければ死んでしまうのだと、今日知った。

それは、解散ライブもない、突然の別れみたいだった。

「会えるときに言いたいことを言っておけ」みたいなせりふはよくあって
まあそうだよな、と思っていた。
本当に言いたいことがあったら、言っている。
本当に言いたいことでも、「言わない」と決めたこともあって、それもそれで正義だった。

「言ったら迷惑かな」なんて思っていたことがあった。
それは言えばよかった。
迷惑ならば消えられる距離の相手なら、言ってみればよかった。
あなたに好かれることより、わたしがあなたを好きでいることのほうが百倍も大事で、価値があることだった。

わたしはあなたと、友達になりたかった。

友達になれるような気がしていた。勝手に。

あなたが見つけてくれるまで書き続ける、とかそういうのは好きじゃない。
いつかあなたが、“松永ねる”を見つけてくれますように、とか
そのために書き続けるとか
ビッグな存在になってやるとか
そういうのは好きじゃなかった。
あなたを好きなことと、わたしが書き続けることは、同じものさしでは測っていけない気がしている。

だから、大切に生きていこう。と思っている。
わたしがあなたを、好きだったこと。
あなたに伝えられなかった強い後悔を抱えながら
この思いが消えないように
大切に生きてゆこう。

いまはそれで充分なのかはわからない。
でも、この思いを手放さずに生きてゆくと、決めている。





※now playing




いいなと思ったら応援しよう!

松永ねる
スタバに行きます。500円以上のサポートで、ご希望の方には郵便でお手紙のお届けも◎