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知らない街

知らない街に来ると、わくわくする。

昔は、「億劫だ」と思うことも多かった。
今でも、多かれ少なかれそう思う。
欲しいものは、だいたい歩き慣れた新宿や町田で手に入るのだ。

それでも、
電車一本で行ける知らない街、
定期圏内で降りたこのない駅、
家の近くなのに渡ったことのない橋、

そうだ、約束の時間さえなければ、わくわくする。

基本的に億劫な人なので、
理由もなく「今日はここへいこう」「この駅で降りちゃえ」とはあまりならない。
でも、なにかのついでなら
そのあと、どこへいってもいいよと言われるならば

わたしは知らない街をぐんぐん歩く。
道端に立っている看板にも、館内図にもとびつく。
ふむふむ、と思う。

並んでいるお店を見る、
このあいだ行った街はチェーン店の飲食店が多かったから、
やっぱりビジネス街なんだなあと思うし、
この街には「ちょっといいもの」がたくさん選べる仕様になっていた。
そういうものを求めている人が多いんだろう、と思う。
広い駅にはやっぱりたくさん人がいる。
そういう当たり前のことを、ぐんぐんと見る。
息をたくさん吸って、空と空気の色を見て、匂いを感じたりする。

静岡に住んでいる頃は、
家までの帰り道もどう考えたって一本だったし、
買い物といえば静岡駅のまわりだけだし
「知らない場所を歩きたい」と思ったことを覚えている。
どこかへいきたい、と思った中高生の頃だと思う。
ひとりでバスに乗っても、やっぱり行き先は見知った静岡駅しかなかった。

知らない街で、迷子になりたかった。
駅ビルでトイレを探してそわそわしたりしたかった。
新しいことを、やっぱりどこかで知りたいと思っていた。
億劫だけど。

今日も少し迷子になりながらタリーズを見つけた。
基本的に方向感覚がないので、
「あれ、さっきは右側に見えたのに??」なんて思いながら、
愉快に少し迷子になる。
誰もわたしのことなんか見ていないし、知らないし、待ってもいない。

新宿だって町田だって、最初は知らない街だったんだ。
そういう場所が少しずつ馴染みになっていくのも、
やっぱり愉快に思える。

看板と乗り換え案内さえしっかり見れば、
駅の近くはだいたい歩けるし、
線路は繋がっているから家にも帰れる。
駅から離れるときは、または、隣の駅まで歩いたりしたくなったときは
Googleマップがわたしを守ってくれる。
そういう意味で、東京は親切だし、便利な時代だなあ、と思う。

まとわりつく億劫さを、燃えるゴミの日に捨てちゃえば
今日も、世界はいろんなものに満ち満ちているなあ、と思う。
仕事後に、毎日知らない駅で寄り道をしたとしても、わたしはあと1週間以上は余裕で楽しめるわけだ。
知らない土地で、そんなことを思う。
そして今度は、少し見知った顔で、この街に訪れるのだろう。

少しの高揚感を抱えて、わたしは今日も家に帰る。
このタリーズの、窓からの眺めはとてもいい。

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松永ねる
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