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もう意味はない

ライブのときは、止まった時計をしている。
もう、あまり意味はない。

好きな人にもらった。
とても好きなうたをうたう人だ。
企画ライブなのに、ギタリストが当日の朝インフルエンザになって、
わたしはうろたえていた。
2ステージのライブ、自主企画
わたしは、まいっていた。

その男はいつもと変わらずまぶしかった。
わたしのステージの前にうたってくれた。
わたしは、自分が苦しくなるであろう企画ライブの出順前に彼らを置いた。
逃げ出さないように、戦えるように

それを貸してください、
転換のときに、彼の首からさがっていた時計を借りて、
わたしはそのとき、人生でいちばん苦しいライブを乗り越えた。

ライブ後に、返すと伝えたら、
安物ですがあげます、と言われた。
当時は敬語に近い話し方をしていたかもしれない。
じゃあもらうからね!と叫んでから、
もしかしたらもう、10年近く経つのだろうか。5年じゃ足りない

それからずっと連れ歩いている。
苦しいライブを何度も更新して、何度も、

そうして「あんな苦しいときも乗り越えたんだ」と思うようになった。
彼の記憶から、
わたしの記録へとつなぎ、
まざりあって、
今もわたしの手元にある。

いまは、癖みたいなもので
たまに忘れることもあるくらいで
そう、習慣だ。
お守りというなら、もう守られる必要はないのに。
なんとなく、手放せずにいる。
だからもう、意味などないのに

それでも、
何度も、わたしはこいつと一緒に
いくつもの夜を越えていく

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松永ねる
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