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【アフレコ潜入レポ】戦場のクローンズ

「プロになってから、どうしたいの?」
 問われて、うまく答えられなかったときがある。

 バンドでプロに、と思っていたときに、当時アルバイトしていた会社の社長(別事業で、アイドルの育成などもしていた)に、「それを考えられなきゃダメだよ」と諭された。
 それは叱るわけでも、呆れるわけでもなく、淡々とした事実と、妙な優しさを感じるような言葉尻だった。「俺も昔、バンドやってたんだよ。音源あるなら聞かせてよ」と笑ってくれた社長(そして本当に音源を聞いてくれた)のことは、十年が経った今でも、忘れられずにいる。

 プロになれば、デビューできれば。
 掴んで、幸せになって、許されて、そして息をするだけで愛されていくような(あるいは、どうすればそうなるかの道が用意されているように)錯覚をしていたのだと、今では思う。

 今日は、念願の”受賞”と連載を手に入れた漫画家の話をする。

 その男は、まったくの未経験で漫画家を志し、情熱のみでアシスタントの座に食らいついたという。丁寧に作業と作品に向き合い、情熱は技術へと昇華し、ついに「Amazon縦読み漫画大賞準グランプリ」を受賞した。


 そしてこれが、本人の語る「受賞漫画のその後の話」である。

▼受賞作品【戦場のクローンズ】、絶賛連載中!


 これは、漫画家G!on(ぎおん)の、事実に基づく「受賞の先」の物語となる。

 今日は特別な許可をいただいて、「受賞後の話」すべてを、この記事に掲載したので、ぜひこのまま続きを読んで欲しい。

「この先を描き続けるには、稼ぎがなければ」という事実と、
 終始「自分だけのチカラではない」と語り、
「一人なら情熱で描くけど、継続的な収益なしに、助けは求めるべきじゃないと思う」という、G!on氏が、宣伝を企てた。

 それが、

 である!!!!!


 ここから記すのは、レポーターとしてボイスコミックの収録現場に潜入したわたしが目撃した、「物語をつくる物語」である。



緊張していた僕たちと、なごやかな現場

 アフレコ現場のレポートを書かせてもらえる!
 そんな貴重な権利をいただいて、浮かれていたわたしだけれど、当日はたいそう緊張していたんです。
 知らない場所、知らない人、初めての現場。

 入り口前で同じくそわそわしていたG!on氏と遭遇して、一緒にドアをくぐると、既に到着されていた声優のみなさんが、和やかに出迎えてくれて。すごく安心したこと、いまでも覚えています。
 いま思えば、みなさんも本番前で緊張していただろうに……

 スタジオは、収録ブース(実際に声優さんが演技をして、収録する場所)と
 コントロールルーム(音響さん、音響監督さんなどがいて、録音する場所。収録ブースへの指示出しもこの部屋から)のほかに、くつろげるスペースやソファーもあって、明るく過ごしやすい雰囲気。

 そしてわたしは、元バンドマンで、元ライブハウスの人!
 知識はないけれど、大きな機材が大好き!
 さっそく、スタジオの中を見学させてもらいました。

コントロールルームから、収録ブースへの防音扉
モニターには、収録ブースの様子が写っています。
コントロールルーム、手前が音響さんの席。
隣奥には音響監督さんが座っていました。
これだけ見ると、バンドのレコーディングスタジオにも雰囲気が似てる?かな
収録ブース。
めっちゃ良いマイクが置いてあってニヤニヤ〜〜〜!!

▼収録ブースの図解は、たぬ川にくQさんのレポートをご参照ください!


始まるレコーディングと、全体の流れ

 スタジオの写真を撮って、みなさんに挨拶をして、お土産をテーブルに並べて、そわそわしているうちに、収録が始まるようです。
 まずは、4名が収録ブースの中へ……

左が、本日のタイムスケジュール

 アフレコって、どんなふうに進んでいくんだろう……と思い、しばらく観察していましたが、だいたいはこんな感じでした。

この流れを、一話ごと区切って繰り返されていきます。

 わかりやすくするために簡素に書きましたが、本番が始まるまで、何度も細かい修正があり、テストが何度も行われることも……
 今回は、音響監督さんと、原作者であるG!on氏が中心になって、ディレクションをしていきます。


現場で、実際に起きたこと

 声優さんの演技って、ほんとうにカッコ良い。
 わたしだって文字を読み上げることができる。もちろん、セリフだって。でも、プロの演技って、音の始まる前から終わりまで、もう全然違う。
 声優さんの身体の中に、キャラクターたちが一緒に生きているみたい。防音扉の向こうはもう、”戦場のクローンズ”の世界のよう。

 素人から見たら、テスト段階から「すげ〜〜〜キャラが生きてる!!」と思える臨場感でしたが、細かい修正が入ります。


例えば、2話のこと

 クローンたちが目覚める2話。
 ここで、主人公のクローンも目を覚まします。

目覚めるクローン(主人公)

 目覚めたクローンは、このあと言葉を発するんですが
 では、このクローンが「いつ、しっかりと意識を覚醒したのか」なんて、読みながら考えなかったよ……

 確かに、寝起きは少しぼんやりしていた印象で
 このあと登場する「教官」の存在が、クローンたちを起こしていくように見える。

クローンたちの目の前には、教官の姿が……

 目覚めたクローンが、この人(教官)に従わなければいけないとわかる。
 その心の声に滲むのは、「純然たる義務」なのか、「支配される恐怖」なのか、どちらにも、あるいは別の感情だって読み解けるかもしれない。
 作品は、作者の手を離れた次点で自由になる。
 けれども今日、この収録現場では、ひとつの答えを選ばなければならない。

 今回は、原作を丁寧に読み解いた音響監督さんと
 原作者であるG!on氏の協議。
 場合によっては、声優さん自身の意見も交えて決定されてゆきます。

鳴瀬友希さんの演技。
ご本人の優しいお人柄からは想像できないくらい、
たっっっくさんの演技・声色を聞かせてくれました。


 教官については、「2話では、まだ影がある感じなので……」という音響監督さんの言葉が印象的でした。

2話の教官。登場シーン

 そう、わたしたちは当然”戦場のクローンズ”を全話読んでいるので、「教官はこんな感じの人」というイメージを持って収録に挑んでいたのだけれど、「2話での教官」という言葉にハッとしました。
 そうか、このときはまだまだ謎の人物だった……

 もちろん、設定を知って演技をすることを強みになることもあって
 詳細はネタバレになるので伏せるけれど「そのキャラが、なぜそのセリフを言ったのか」、G!on氏が設定を説明することで、迫真の演技に繋がった。というシーンも数少なくないんです。
 完成品が届いたら、ぜひその声のトーンの細部まで聞いて欲しい……わたしもいまから楽しみすぎる!


例えば、3話のこと

 3話は、教官のセリフが主。
 ついにクローンたちは戦場に向かうので、教官は常に外で、声を張り上げているようなイメージに見受けられます。

3話の教官。
2話の影がある感じと比べると、厳しく強い姿

 ただ、ずっと声を張り上げていると緩急がない。
 緩急が大切なのは、バンドや音楽と同じかな〜と思いながら聞いていました。サビだからってずっと音を張り上げない。弱い音があるからこそ、強い音が存在する。

 いやでも、今回は教官ずっと外(戦場)にいるし、
 みんな散り散りで戦っていて、声を張り上げないと聞こえないのに、緩急ってどうするんだ?と思っていたんですが、あるんですよ。教官にも、心が(当たり前だけど)
 本当に声を張ってみんなに伝えたいのか、どちらかといえば独り言に近いような心情だったり……

 このときのクローンたちから見たら、血も涙もない鬼教官かもしれないけれど
 ほんとうは、血も涙もある人間なんだよ……っていうのが、バッチリ声で伝わってきて。わたし教官のこともっと好きになりました。

地曳みかさんの、大迫力の演技!
すらりとお美しいご本人の姿は、教官の姿と重なる部分もありました。


他にもたくさん

 例えば、敵を倒すときの声が
「余裕そう」なら敵は弱く見えるし
「しんどそう」なら、敵は強く見える。

 そのセリフは、
「相手に伝えるための言葉」なのか、
「自分に言い聞かせたいだけ」なのか。
 そして相手がいる場合は、近いのか、遠いのか。

 言われてみれば、なるほどそうだよなあと思うけれど、聞いているだけの立場だと、ぜんぜん意識したことなかった!
 今まで、無意識のうちに感じ取ることができたのは、声優さんが丁寧に演じ分けてくれているからだったんだね……

「重心を低めで」という表現は、この日に学びました。
 演じるキャラの、体格が大きいとき
 あるいは、倒したキャラの体格が大きいとき
 声優さんは、重さの変わらない台本を持っているだけなのに、一瞬を演じ分けてゆく。

 憎むときは、顔をしかめ
 泣きそうなときには、目元も口元もがっくりと下げ、
 息が切れるときには、背中を丸め、
 演技を見ていると、漫画のシーンが浮かんでくる。まるで、演劇を見ているかのような、贅沢な時間でした。

▼「全身で表現してゆく姿」は、サワノサワさんのレポートで!


みんなで、ひとつの作品を作っていく

 今回、アフレコ現場を見学させてもらうにあたり、「食べ物の差し入れって迷惑じゃないかな?」って、声優の友達に相談したんです。

 そのとき、「現場!!! 楽しいよお!!! 堪能してきてね!!!」って言ってくれたのが、すごく印象的で。楽しいのかな。って、疑ったわけじゃないんだけど。なんとなく、しっくりこなくて。良い意味で。想像できなくて。

 バンドをやっていたころ。レコーディングは戦いだと思っていました。
 言葉通り、ぶん殴る感じの。自分自身とも、周りとも。弾き終えても戦いが続いて、「音」という目に見えないモノに対して、みんながそれぞれ言語(という名の擬音や、曖昧な表現)で意見するから、なかなかまとまらない。
 個性だと信じて乗せた音が、不協だと言われて消されたり
 わけもわからず「なんか違う」って言われたり。
 アレッ、これってわたしだけ……?? 思い出すとお腹が痛い。


 声優さんは、既に存在している「キャラ」という枠組みの中
 音響監督さんや、原作者さんの意見や情報を真摯に受け止めながら
「わかりました。その感じでやってみます」って、即座に(本当に十秒くらいで)別のパターンを出して
 役を演じながらも、気持ちや個性を詰め込んでゆく。それがすごく眩しくて、格好良かった!

 リテイクに真摯に向き合うって、少なくともわたしにはすごく難しいことで。
 わたし自身の人格(あるいは今日までの準備や積み重ね)を否定されたような気が、まったくしないと言ったらウソ。
 相手の要望を理解できないことが苦しかったり、情けなかったりして
 これっていきすぎると、「わたしじゃなくていーじゃん」になっちゃう。

 リテイクや直しが勉強になるっていうのは、どの業界でもそうだと思うけど、「あればあるほどめっちゃ嬉しい」ってワケはナイ……「リテイクに燃える」みたいなことはあるかもしれないけれど。

 この日は、リテイク時の指示出しが的確で、
 音響監督さんは、「どうして、どんなふうに変更して欲しいか」って絶対に説明してくれるんですよ。
 考えてみると、日常生活やお仕事の場面でも、この配慮が欠けちゃうことって、実は多いよね……「もうちょっと早く」とか「もうちょっと見やすく」とか。なんで早くしなきゃいけないのか、何を以て見やすいとするのか、それじゃあわからないでしょ。みたいなこと。

「どうして・どんなふうに」のどちらもがあることで、現在の演技の方向性を確認したうえで、声優さんが何を変えてゆけばいいかの指針が見えてくる。だからこそすぐに演技に反映されるし、現場の空気もずっと明るい。
 キャラの、その瞬間の心情を読み解いて、その答えに添うような声を、音を、表情を、探してゆく。

 みんなで、ひとつの作品を作ってゆく。
 ひとつひとつに一生懸命になって、みんなで共通のゴールに向かっていく姿。これこそが、アフレコの現場ならではの「現場の楽しさ」なのかなって、わたしはそんなふうに受け取りました。

▼一緒に作品を作っている姿は、ゆめのなかさんのレポートで!


おわりに

 本当に、ほんとうに最高の一日に同席させてもらって
 わたし、この日のことずっと忘れないと思う。
 飲み会とか苦手なのに、楽しかったから「行きます!」って言って、いろんな人と話して、いろんな考え方を知って、すごーーーく刺激になった。
 特に「声優さん」という職業については、「声で演技をする人」「声で情報を伝える人」っていう解像度だったんだけど、もう少し深いところに触れさせてもらったような気がして

 誰もが持っている「声」を、こんなにも特別に、丁寧に、幅広く取り扱う職業だなんて知らなかった。気づいていなかった。
 声優さんが読むと、音の世界が変わってゆく。
 文字が浮かび上がって、息をするように歩き出す。
 目の前がパーン!と、開けたような感じ

 漫画やアニメの見方が変わった!って、言ったら言い過ぎかな。
 いや、そんなことないと思う。
 自分が今日まで、どれだけ斜め読みをしていたか実感したというか
 じゃあ、漫画もアニメも真摯に向き合わなきゃいけないかと言ったらそうではなくて、ゆっくり自分のペースで楽しむことができたらいちばんなんだけど

 うつむいた瞬間に、その一瞬の息継ぎに
 落とした声のトーンに、張り上げられなかった痛みに
 これからはもう少し、寄り添っていけそうかなって。
 新しい視野と世界をいただいた。そんな気持ちでいっぱいです。



この先の物語は、

 漫画を描き続けるため、
 そして、自分の作品を広めるために、周りを巻き込んで、生み出したキャラクターに新たな息吹を与えることに成功した、漫画家・G!onの物語はまだまだ続いてゆきます。

「君だってねえ、エライんだよ。演奏することと、バンドの運営と、どっちもやってサ……」
 バンドを頑張っていたころ、久し振りに再会した友人に掛けられた言葉は、今でも忘れられません。
 音楽事務所で、マネージャーのような仕事をしていた彼は、「演奏することと、マネージメントを同時にやることは難しい」と言ってくれました。

 わたしも、そう思っていた。
 作ることと売ることは、まったく別の能力を求められる。
 でも、みんな(じゃなくても、バンドメンバーの誰かが)当たり前にやっているから、つらいなんて言えなかった。
 でも実際は、「売る努力」をしないと売れない。
「ライブに来て」と言わなきゃ、誰もライブに来ない。
 言ったって誰も来ないかもしれない。
 作らなければ傷つかないのに、わたしたちは作り続ける。
 それは、受賞した漫画家だって同じこと。

 でもさ、実際に賞金が入ったら、好きなモン買うでしょう!!!????
 これからのことを考えるより、今の快楽を求めちゃうのがフツーじゃない!!!????
 作品で得たお金を、作品にまた還元すること。
 言葉にすると、どこかで「そりゃあそうだよなあ」と納得しちゃう気がするけれど、わたしはやっぱりすごいと思う。自分が同じ立場だったら、もっと自己中な選択をした。自信がある。

 ボイスコミックという選択で、言葉通り「お金と未来」を賭けて、作品を通して、お世話になった人へ恩返しをしたG!on氏。
 レポートを引き受けたはいいけれど、いろいろ不安もあったわたしに対して「楽しみましょう!!」と言ってくれたのは、本当に有り難かった。
 たぶんあの日、スタジオに集まった人たちみんなそれぞれの不安があって、でも最後まで楽しい時間だったのは、首謀者であるG!on氏がそれを願ったからだろうな、って。自身のこだわりと、相手の信念の、その絶妙なディレクションが本当に素晴らしかった! ふだん、基本ひとりで漫画描いている人には見えなかったよ……

 G!on氏を取り巻く、「楽しい日々」はまだまだ続いてゆきます。
 ボイスコミックの到着を待ちながら、
 ”戦場のクローンズ”、ぜひ読んでください。
 クローンたちが、声を伴って起き上がる、その前に。

▼G!on氏が生み出してた物語はこちら(全編無料)

▼最新の情報は、Xをフォローしてお待ちください!


当日の様子は、

 音響制作を担当している”株式会社REBOOT”さんのページでも見ることができます! この日、収録に参加した声優さんの一覧もこちらから。


漫画レポはコチラから

 本文途中でもリンク貼らせていただきましたが、改めて

▼息を止める緊張感から、現場のリアルなディレクションの雰囲気は、たぬ川にくQさんのレポートで! 「セリフが、声になってゆく衝撃」が、丁寧に描かれています。見ているこっちのドキドキ感も、すごくリアル。

▼声優さんたちそれぞれの演技や、作品に真摯に向き合う姿は、サワノサワさんのレポートで! 声優さんたちの表情から、当日の空気感が伝わります。レポチームとして、わたしのことも描いてくれてあって嬉しすぎる……!!

▼ほのぼのした雰囲気から一転する声優さんたちの姿を描く、ゆめのなかさんのレポート! 声優さんたちのオンオフの切り替え表現が、本当にリアル! 1ページ目と2ページ目の表情の違い、ぜひ見て欲しい!


 この記事を執筆しながら、漫画家さんたちのレポートのネームなども拝見していたんですが、やっぱり漫画ってすげ〜〜〜!! 心臓をギュッと掴む瞬発力に、わたしは到底及ばないな……と勝手に落ち込んだりもしました。本当に、現場の空気がリアルに描かれているので、ぜひ読んで、感じ取って欲しいです。
 わたしも、落ち込んでばかりもいられないので、わたしなりの「スゴイ!」と「楽しい!」を、たくさん詰め込みました。

 表現を愛するみなさまの、気づきのひとつと
 あなたと、"戦場のクローンズ"を結ぶ、出会いのきっかけになることができたら、これほど嬉しいことはありません。

 2025年2月20日 松永ねる


▼REBOOTさん、ありがとうございます!!


▼G!on氏と、飲みに行ったときのこと。やっぱりいいやつであった。

G!on氏の感想が嬉しい


▼G!on氏のお師匠、あんじゅ先生に面談してもらったときの話。大切なこと、いまでも思い出します。


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松永ねる
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