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文字に咲く笑顔

Aの次にやること

そうタイピングしたあと、わたしは「かお」と打つ。
うーん、ちょっと気分じゃない。
「かおもじ」と打ち込んで、何度か変換ボタンを押す。

Aの次にやること(*´∀`*)

わたしは「資料」と名付けたテキストの冒頭に、そう書き加えた。

顔文字を、使うようにしている。
仕事のとき、自分しか見ないようなメモ書きみたいな資料には、必ず付ける。
自分と、自分の身の回りだけ、実務とは少し遠いところだけで咲く、小さな魔法だった。

いまでも、忘れない。

もう、5年ほど前になるだろうか。
初めて、デスクワークの職に就いた。

発送のための軽作業、みたいなアルバイトで採用されてから1ヶ月も経たないうちに、わたしはデスクに向かう業務をしないかと誘われた。
あとでわたしを選んでくれた上司に聞いてみたら、「初日のランチのときのしゃべりかたがよかったから」と言われた。
新しく与えられたのは、電話をかけるような仕事だった。

軽作業で入社したつもりだった。
わたしはそれまで、ライブハウスと、チェーンのコーヒー屋と、ガソリンスタンドでしか働いたことがなかった。
27歳くらいだったと思う。
引き抜いてくれた上司も、年下だった。

わたしにできるかわからない、という不安もあった。
でも、その当時のわたしは更に大きな負担を右手に抱えていた。
右手の剥離骨折のあとが、まだまだ痛む時期で、そのことは面接時にも伝えていた。
いま思えば、なんで軽作業のアルバイトなんて選んだんだろう。
純粋に「選んでもらえた」というのも嬉しかったので、わたしはその誘いを受けることにした。

同じ会社なのに、いつも遠くから見ていたデスクに座ることになった。
初日は、どこに座っていいのかすらわからなかったことを、いまでも覚えている。

最初の業務は、「言われた通りの商品を探し、エクセルに記入すること」だった。
わたしが作業を終えたあと、以前も同じ商品を選んでいないか、というチェックが入ることになっていた。

「以前に選ばれた商品」が何なのか知る由もない。
だから、「新しい商品」を選んだ個数が少なくても、わたしのせいじゃない。

そんなことはわかっているけど、チェック後のエクセルが「以前選ばれた商品」を告げる赤に染まっていると、残念な気持ちになった。
何十個も書いて、残るのはいくつかあればいいほうだった。
そういう仕事だった。

これ、いいですね(*´∀`)

そう書かれていたとき、わたしはうれしかった。

初めてのオフィスワークだった。
仕事で顔文字を使うなんて、最初はびっくりした。

でも、なんだかすごく嬉しかった。
なんでだろう。
全然上手に言語化できないのが悔しいくらい。顔文字ひとつで、こんなに明るい気持ちになれるなんて、わたしは知らなかった。

いつしかわたしにも後輩ができて、わたしがチェックをする立場になった。
同じように、顔文字をつけた。

その後の職場でも、ずっと使っている。
自分が苦しくなりそうな箇所に、「ここをチェック(・∀・)」とメモを残したりする。

いまでも、わたしは変わらない。
ばかのひとつ覚えみたいに、ほっとしている。

noteで顔文字を使うことはないけど、note以外のSNSでは顔文字を使うようにしている。
最近は機種依存も減ったから、絵文字のほうが増えたかな。
ピンクのハート、緑のクローバー、黄色の星を並べて、きらびやかな気持ちになる。
わたしの感動や、「あなたと話せて嬉しい」という気持ちが、色彩を伴って、誰かに放たれる。
それが今日も、うれしい。

こんなに毎日文字や言葉を紡いでいるのにね。
わたしはいまでも、顔文字と絵文字をやめられない。
やめたくない、と確信している。



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