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3月12日。あなたへ
お元気ですか?
なんだか、急に春じゃない?
こちらは、ずいぶんとあたたかい日が増えました。
コートを着て外に出たら、ずいぶんと暑くて。
気温を調べたら、21度? 驚いて笑っちゃいました。
そりゃあ、半袖の人がいるわけね。
梅の木から、もう緑の葉が覗いてる。
桜の蕾は昨日より今日、確実に膨らんでいて
明日咲いても、きっと驚かない。
今日は近所にできた新しいカフェに行こうと思って、
読みかけの本をいくつかと、ノートとペンもカバンに押し込んできたのだけれど
良い天気でね。我慢できなくなって、川辺に座っちゃった。
そういえば、我慢する理由なんて、どこにもないよね。
だってわたしはこれから暇で、カフェに行こうと思っていたんだから。
すぐ"我慢"とか思う癖は、治したほうがいい。
って、このあいだも手紙に書いた気がします。
*
最近、猫とか子どもとか増えたと思っていたんだけど
今日は釣りの人がたくさんいる。
そういえばこのあいだ、釣り堀をね、もう囲むみたいに人がたくさんいるのを見たんだった。
いいわね、春っぽくて。
釣りしたことはないけれど。
本を読んだり、釣りをする人を見たり、
時折後ろを通る犬の鳴き声に驚いたりして。
そう、猫も増えたと思ったけど、犬も増えたわね。
*
今日は、川辺で撮った写真を送ります。
あのね、覚えていたいと思って。
何も我慢する必要なくて、川辺に座った今日のこと。
午後の日差しがあたたかかった、今日のこと。
どこへ行くのも自由で、帰る家はあるけどひとりぼっちだったわたしのこと。
覚えていたいのよ。
もう少し時間が経ったらね、忘れてしまうような気がして。
日々の忙しさに殺されて、
やらなきゃいけないことに、押し潰されて
最後に読んだ本の名前も忘れて
午後の日差しがあたたかいなんていうところから、
わたしは、遠い世界いに行っちゃうような気がして。
別にね、そういう生き方でもいいのよ。
自由だから、自分で選んでいれば。
ただね、わたしはさ
覚えていたいの。
今日見たすべてを。
他のいくつかは忘れてしまってもいいから。
あたたかい日差しの中、釣り人を見ながら本を読んだこと。
わたしには、それが大事なんだと思う。
*
覚えていたくて、すぐに手紙を書くことにしました。
こうして手紙に書けば、少しは覚えていられるかなって思って。
あなたに覚えていてもらおう、なんていうのはずるいけど
いつか、この街をあなたと歩けたらいい。
わたしもいつか、この街を出るかもしれない。
すごく気に入っているけど、行かなくてはならないときってのはあるから。
それでもね、今日のことは覚えていたいの。
だから、いつかあなたとこの街を歩く。
それを約束にするのは、いいかもしれない。勝手だけど。
そうしたら、今日のことを、わたしの大切な時間のことを、覚えていられる気がするよ。
*
そちらの季節はいかがですか?
あなたの話も聞かせてください。
ご自愛くださいませ。
2022年3月12日
※この街の、別の物語
※今日のBGM
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