マガジンのカバー画像

深夜のフィナンシェ

56
書いてみた短編小説と、小説っぽいもののまとめマガジンです。
運営しているクリエイター

2022年3月の記事一覧

さよなら、わたしのエピローグ

それは、ずいぶんとあたためた感傷であり、答えだった。 「女の怒りはスタンプ制。怒りのスタンプが満10個になると、爆発する」 というような例えを見たのは、もう何年も前のことだ。 女の、というのが正しいかどうかはわからないけれど、わたしは激しく同意している。 「べつにいい」「話すほうがめんどくさい」と我慢したもの、 なんならあるときは「たのしい」と思い込んで取り組んでいたことでさえ、どこかのタイミングで「なんでいつもわたしばっかり!??」と爆発する。 不思議だ。9個目のときま

深夜4時の希望

コンビニに行くことにした。 深夜4時。 2時半ころに、エッセイを書いて、消した。 友達に手紙を書いて、それからもう一度試みて、やっぱりだめだった。 プライドと見栄と、書き方と言い訳、いろいろ組み合わせたけれど、いい答えが出なかった。 もともと難しい話題だとはわかっていたので、今日のところはすなおに諦めるに尽きる。 代わりに書いた手紙をポストに出して ついでに、別の友達に送るポストカードを印刷しにコンビニに行こう。 「ついでに」というのは、わたしを勇ましくさせた。 ふたつ

14番目の月と、幸福の色

二十歳だった。 怖いものなんて何もなかった。 その台詞は鉄球のように重たく、重力に沿ったスピードでわたしの中に落下してきた。 地面に当たる直前で、慌ててコートの襟をぎゅっと掴んで、深く吸い込んだ。 驚いて弾んだ息をなんとか整えながら、難いほどの青空を見つめるので、精一杯なわたしがいる。 三十五歳のわたしだって、怖いものなどない。怖さの種類が変わっただけだと言い聞かせる。 決して、二十歳の頃を懐かしんで、今と比べて「失った」などと思いたはない。 押したいボタンは増えた気が

北ではない方角に舵を取る

雨は嫌いか、と問われたらどう答えるだろう。 憂鬱だ、とは思う。 傘をさして外を歩くのは面倒だし、足元は濡れる。 足が濡れるのをひどく嫌っているので、2つ持っている防水靴を選ぶのだろうけど、晴れた日に履くのとは雲泥の差だった。 散歩もしない、急ぎのもの以外の買い物もしない。 少しだけ、行動が制限されるような気がする。 雨の日が休みだったら、どうだろう。 「休みでよかった」とも、「せっかくの休みに」とも思う気がする。 雨の日に会社に行くのは当然だけれど、やっぱり散歩には行かなか

3月12日。あなたへ

お元気ですか? なんだか、急に春じゃない? こちらは、ずいぶんとあたたかい日が増えました。 コートを着て外に出たら、ずいぶんと暑くて。 気温を調べたら、21度? 驚いて笑っちゃいました。 そりゃあ、半袖の人がいるわけね。 梅の木から、もう緑の葉が覗いてる。 桜の蕾は昨日より今日、確実に膨らんでいて 明日咲いても、きっと驚かない。 今日は近所にできた新しいカフェに行こうと思って、 読みかけの本をいくつかと、ノートとペンもカバンに押し込んできたのだけれど 良い天気でね。我慢

太陽と過ごした午後

週に1度、光合成をしている。 病院からの帰りは、公園まで歩く。 坂を越えて、下って、ベンチに座る。 買ったお茶を、ぐびぐびと伸びながら。 おひるごはんは、おにぎりと甘いパンをひとつずつ。 ついこのあいだまでは、寒かったのに。と思う。 ああ、わたしってば 「ついこのあいだまでは」という言葉を、すぐに引っ張り出してしまう。 だってほんとうだもの、と思う。 このあいだはまでは、外での読書は短い時間だけだった。 散歩で火照った身体もすぐに冷えて、風の吹く日は寒くさえあった。