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深夜のフィナンシェ

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書いてみた短編小説と、小説っぽいもののまとめマガジンです。
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2021年12月の記事一覧

ふたつの心臓

「どちらでもいいよ」 目の前のひとは、そう言った。 慈悲深い微笑みだった。 「どちらでもだいじょうぶだよ」 わたしは愛され、許されているのだと思う。 目の前の想いから逃げ出そうとするのは、さすがに往生際が悪いというか、なんだか違う気がした。 深く吸い込んで、満たしてゆく。 「あなたの考えを支持するし、応援するよ」 告げられたやさしさはあたたかな空気となって、きっちりと肺の半分に収まった。 * もう半分は、雨に打たれていた。 強い雨だった。 わたしはいま、「やさ