(3/3)アセクシャルやアロマンティックのキャラクターを登場させる前に知ってほしいこと—―ステレオタイプについて知る

本記事は、「アセクシャルやアロマンティックのキャラクターを登場させる前に知ってほしいこと」の3つ目です。
記事の目的や全体の流れについては、1つ目の記事をご覧ください。


3.Aro/Aceのキャラクターあるある~

ここでは、今まで(特に英語圏の)Aro/Aceコミュニティで「Aro/Aceのキャラクターを描くとき、こう表現するのは問題だよね」と話し合われてきた内容の一部を紹介していきます。

3-1.「あるある」な偏見

以下、「あるある」な偏見、社会にある思いこみを「ステレオタイプ」と呼びます。
Aro/Ace当事者に向けられるステレオタイプは、以下のものがよく指摘されます。

・セックスや恋愛に興味がないキャラクターは、しばしば心が冷たく、孤立している存在として描かれる。
・セックスや恋愛に興味がないことはいずれ“治る”と見なされ、何らかの形で恋愛やセックスが“できる”ようになるよう描かれる。

このような「問題」のある表現が偏見としてなくならない場合、実際に生きている全てのAro/Ace当事者に対しても、「心が冷たくて孤立している人たち」「いつか恋愛/セックスが“できる”ようになる」との決めつけがなされる恐れがあります。
2つ目の記事で確認したように、Aro/Aceの当事者は多様です。「Aro/Aceだから〇〇」といった型に押し込めるのは無理がありますし、ステレオタイプと言うほかないでしょう。

3-2.ステレオタイプはなぜ「問題」か

たとえば、ある創作者が「恋愛しない」アロマンティックのキャラクターを物語に登場させ、とあるきっかけで恋愛“できる”ようになった、という筋書きにしたとしましょう。
社会には、「恋愛したことがない人もいつか恋愛“できる”ようになる(まだ“運命の人”に出会ってないだけ)」といった思いこみがあるので、多くの人はその表現を見ても、引っかかることなく信じるかもしれません。「そのキャラクターは“運命の人”に出会えたのだ」という、ステレオタイプをなぞる陳腐でわかりやすい展開だからです。
しかしアロマンティックとその展開を結びつけた表現が見慣れたものになり、「アロマンティックの人もいつか恋愛“できる”ようになる」というステレオタイプが強化されてしまうと、実際に社会に生きているAro/Ace当事者や周辺の人々に、それらの偏見がストレートにぶつけられてしまう危険性があります。また、当事者がそのステレオタイプを内面化し、悩んでしまうこともあるでしょう。

1つ目の記事でも述べた、このような「負の連鎖」をなくしていくためには、Aro/Ace当事者やその周辺の人々を貶めかねないステレオタイプがどのような形ですでに存在しているのかを知り、「これは『問題』なんだ」と認識する必要があります。
一部にはなりますが、すでに指摘されてきた「問題」をここで知っていきましょう!

※網かけの中は引用(&日本語訳)です。[ ]内は引用/訳者によります。
※網かけ内の日本語訳は半ギレAroaceによるものではなく、ある方に翻訳をお願いしました。ご協力ありがとうございます。

3-3.Aro/Ace当事者に向けられるステレオタイプ

・ジュリー・ソンドラ・デッカー(訳:上田勢子), 2019,『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて——誰にも性的魅力を感じない私たちについて』, 明石書店


127ページから131ページにかけて、「エンターテイメントの中のアセクシュアリティ」について触れられています。その中の一部(130ページ)から引用します。

メディアに登場するセックスをしない人や興味のない人は、しばしば、異常者、非人間的な行動をする人、殺人者、宇宙人、架空の人物、ロボット、ひどい心の傷を負った人、などとして描かれます。どれほど奇妙で非人間的かを表す要素として扱われることが多いのです。そして、そうした登場人物は、人間の感情(恋愛やセックスの形を取った)によって「救われ」たり「健全」になったりするといった筋書きです。[中略]残念なことに、アセクシュアリティは、ジョークの対象や、登場人物のつくうそとして表されることがまだほとんどなのです。

・「How to Write Aro/Ace Characters」(アーカイブ、2021/5/27閲覧)

Aro/Aceのキャラクターを描く際に注意してほしい7つのことについて述べられています。
▽もくじ

①調査、調査、そして調査
強調してもしすぎることはありません。あなた自身がアイデンティファイしていない多様な[=マイノリティの/※訳注]キャラクターや集団のすべてについて言えることですが(あるいはアイデンティファイしているものについてすら言えることですが)、それぞれの集団にかんする事実、定義、そして取り扱いに注意すべきセンシティブな問題に自覚的であることが重要です。そのことによって、あなたはステレオタイプを避けることができるし、あなたが描こうとしているコミュニティに対して、敬意ある態度をとることができます。AceとAroは、その定義や部分集合にかんして難しさを抱えているかもしれませんが、あなたが描くキャラクターの話の展開の一側面として、それらのことは考慮にいれるべきです。

[※訳注]この文書中で「多様な(diverse)」という形容詞は、基本的に「マイノリティの」という意味で使われていると理解して良い。以降もこの表現が出てくるときは同じ。
(原文)I cannot stress this enough. As with any diverse character or group that you don’t identify with (or even some that you do), it is important to be aware of the facts, definitions, and sensitive issues surrounding each group. This helps you avoid stereotypes and remain respectful of the communities you’re writing about. Ace and aro might be a little heavy on the definitions and subsets, but consider it part of your character development phase.

説明:たとえば、あなたがアセクシャルを自認していたとしてもしていなかったとしても、アセクシャルに関する事実や「アセクシャル」という用語の定義、アセクシャルを取り扱うときに注意すべきセンシティブな問題(本記事に即せば、アセクシャルにはどのようなステレオタイプがあり、それが創作物にどのように反映されがちなのか、といった問題など)を知っておくことが重要だ、ということです。

②ステレオタイプを避ける
オリジナルな作品を書こうとするとき、ステレオタイプというのはいずれにせよ[※訳注]避けるべきことです。当たり障りのない、面白くもないキャラクターを描きたいと思う人は誰もいません。多様な[=マイノリティの]キャラクターについては、このことはますます重要なこととなります。ステレオタイプをはびこらせてはなりません。ステレオタイプはそれぞれの集団に応じて異なっていますが、AceとAroの集団に共通する一つのものがあり、AceやAroの人々は内向的で、純粋無垢で、性についてお堅いタイプの人々で、他者から興味を持たれてもそのことに気づけないような人々だ、というステレオタイプです。あなたが描くキャラクターが、仮にこれらのステレオタイプ全てにあてはまるとしても、それは、そのキャラクターがAceやAroだからそうだというわけではないということをはっきりさせておく必要があります。あなたの描くキャラクターの性格が、子ども時代の問題のために用心深い性格であるとしても、個人的な理由によってセックスをしないことを選んでいるのだとしても、あるいは社会的な行動にかんして困難を抱えているとしても、それらがそのキャラクターのAceやAroのアイデンティティからは独立であるということは、確かにしておくべきです。両者がつねに関連しているとは限らないからです。

[※訳注]ここで「いずれにせよ(at best)」とは、コミュニティへの偏見を強化するという倫理的問題とは別に、何かオリジナルな作品を書こうとするなら、どちらにせよ退屈でステレオタイプ的な描き方は避けたいと思うでしょう、ということ。
(原文)Stereotypes are iffy at best when writing original work; you never want your characters to come of as bland or run-of-the-mill. This is even more important in diverse characters - don’t perpetuate stereotypes. These will be different for every group, but a common one for asexual and aromantic groups is that they are closed-off, innocent or prudish people incapable of recognizing when others are interested in them. While any of those might be valid for your character, be sure that it is not because they are ace or aro. If your character’s personality is guarded due to childhood issues, or they have chosen to abstain from sex for personal reasons, or they struggle with social cues, establish this independent of their ace or aro identity. They are not always correlated.

③魅力を分割するモデル[SAM]を理解する
④魅力と行動は一致しないことを認識する
⑤セクシュアリティ/魅力はスペクトラムであることを認める
⑥人にいろいろ聞く
⑦Aフォビア[aphobia/≒acephobia]の存在に気づく
※Aro/Aceに対する攻撃的な発言の具体例が掲載されています。閲覧するかどうかは、今のご自身の体調と相談して判断していただければと思います。

・Aro/Aceの不適切なメディア表象について「Representation and inclusion」『Aces&Aros』(2021/5/27閲覧)


Aセクシュアルの知名度(ace awareness)は増大する一方、メディアにおいて適切かつ明示的にAceやAroが表象されることはほとんどありません。AceやAroのキャラクターはしばしばステレオタイプ的に描かれ、AceやAroの人々についてのネガティブなものの見方をはびこらせています。キャラクターがAceであるとほのめかされるとき、それはしばしばコミックリリーフであり[※訳注]、あるいはそうでないときも、Aceであると示唆されるキャラクターは物語の終わりにはAceであることが治ってしまいます。Aroの場合、Aroであることを示唆されるキャラクターはしばしば冷酷で、サディスト的な悪党です。

[※訳注]コミックリリーフとは、緊張感の続くシーンの途中で、緊張を和らげるために差し込まれるコミカルな場面のこと。
例:「え、僕はクラスメイトの女子に性的魅力を感じない…Aセクシュアルなのかな……。なーんてね!」的な。くそ。
(原文)While ace awareness is increasing, little accurate or explicit ace and aro representation exists in the media. Ace and aro characters are often written as stereotypes, perpetuating negative perceptions of ace and aro people. Characters implied to be ace are often comic relief or are cured by the end of the plot, while those implied to be aro are often cold, sadistic villains.

・シネマンドレイクさんの記事「ドラマ『17.3 about a sex』感想(ネタバレ)…アセクシュアル当事者である私からみた評価」『Cinemandrake』(2020/10/31投稿、2021/5/27閲覧)


2020年にAbemaTVで配信されたドラマ『17.3 about a sex』(製作国:日本)の感想が書かれた記事です。この記事内の「無視できない本作の問題点」に、Aセクシュアルに対するステレオタイプや、NGと指摘されてきた表現について触れられています。

・シネマンドレイクさんの記事「『アンモナイトの目覚め』感想(ネタバレ)…同性愛が無性愛を消去する問題について」『Cinemandrake』(2021/4/11投稿、2021/6/6閲覧)


2021年に日本で公開された『アンモナイトの目覚め』(製作国:アメリカ)の感想が書かれた記事です。この記事内の「本作に対する大きな不満」のところで、Aセクシュアルの存在が創作物の中で抹消される「Asexual erasure」の問題が紹介されています。

4.おまけ:翻訳ツール紹介

日本語でAro/Aceについて知れる環境もじわじわ整ってはきましたが、未だアクセスがしやすいとは言い難い状況です。けれども日本語ではなかなか得られない情報が、英語で検索するとさくっと見つかることもあります。
「もっとAro/Aceについて手軽に知りたい!けど、英語は苦手…」という方のために、英語の情報を入手する際に役に立つ翻訳ツール、およびその使い方について解説されているサイトをご紹介します。
もちろん翻訳ツールにも限界はありますが、「だいたいでいいからどんな情報が載っているのか見てみたい!」という方は、翻訳ツールの限界を認識した上で閲覧してみるのもいいかもしれません。興味があればさっそく、今回ご紹介した英語のサイトを読んでみてください!

※どちらも無料で使えるよ!
・Google翻訳


使い方(解説サイト)


・DeepL


使い方(解説サイト)


★リソース集への批判や反対意見、情報に誤りがあった場合や「このサイトも載せた方がいいんじゃない?」等ありましたら、ぜひ半ギレAroaceにご連絡ください。なお、いただいたご意見すべてに応答する約束はできかねますので、あらかじめご承知おきください。
連絡先:(メール)hangire.aroace@gmail.com/(Twitter)@hangire_aroace

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