これがラー汁!東大五月祭にて|エッセイ
東京大学では5月に学祭が行われる。5月は早いなと思われる方もいるだろうが、秋には駒場祭というもう一つの学祭が控えている。
2日間にわたる五月祭に、僕は両日参戦した。
1日目の朝、僕は雨の本郷に着いた。広大な敷地にゆったりと構えるレンガ造りの建物たちは、祭りの空気の中にもおごそかな雰囲気を失っていない。
本郷キャンパスに来ると自分の大学の建物たちが窮屈な思いをさせられているのではないかと思ってしまう(僕は東大の学生ではない)。
初日同行のS尾さんは東大の大学院で天文学を専攻している。彼女は五月祭のマスコットキャラクターであるメイちゃんのストラップを手に入れようと、朝からかなり気合が入っていた。2か所あるガチャガチャにどちらも並ぶと宣言され、僕は一瞬驚きを隠せなかったが、結局一緒に並んだ。
しかし悲しいことに、お目当てのものが手に入る前にガチャガチャは売り切れとなった。S尾さんはかなりショックを受けていた。2日目もガチャガチャの販売はあるのだが、S尾さんは明日はどうしても来られないそうだ。見るに見かねた僕は、明日自分が必ず手に入れておくと約束した。
その日の主なミッションは、見事東大に入学した高校時代の同級生たちの顔を見ることである。彼ら1年生は所属するクラスごとに屋台を出す。僕は友人たちのクラスの屋台を訪ねては彼らにあいさつをし、チュロスや中華まんなどの食べ物などを購入した。
その後はS尾さんが関係している天文学専攻や地学系の学科の展示を見た。文系学生には少々難しい内容だった。たくさんの文字式はもう見たくない。
そうこうしているうちに昼時となり、我々は食事をとろうとパンフレットで食べ物屋を探した。すると気になるお店を見つけたのである。
これがラー汁!至福の一杯。
本郷キャンパスを知り尽くした我々にしか作れないラー汁をお楽しみください。
本郷調査隊
ラー汁とは何なのか。早速現場に向かった。
農学部エリアのその教室に着くと、一枚の張り紙があった。
土曜日はラー汁の販売ありません!!
我々は肩を落として農学部2号館を後にし、屋台で牛串やピロシキを買って昼食を済ませた。そしてお互い用事のため解散した。
2日目はM園くんと東大を訪れた。彼は大学で古代メソポタミアのアッカド語を学んでいるちょっと変わった友人である。その日は筑波から特急電車で来てくれた。
僕はM園くんと合流し、2日目のミッションであるメイちゃんストラップとラー汁のことを伝えた。そしてすぐにガチャガチャの列に並んだ。S尾さんからはいくら使ってもいいから当該の品が出るまで回してほしいと言われている。我々は3回のトライでその品を入手し、その日の最重要課題を達成した。
気になる展示をいくつか見たり、昨日会えなかった友人に会いに行ったりした後、我々はついにラー汁の店に行った。
教室に入ると、黒板にメニューが記されていた。
ラー汁 200円
ラー汁+乾麺 300円
なるほど、ラー汁というのはラーメンのスープのことらしい。手作りのスープにはこだわっているけれど麺は既製品の乾麺を茹でただけ、ということなのだろう。僕はそう考えた。
我々が「ラー汁+乾麺」を注文しようとすると、整理券を渡され30分ほど待つように言われた。そんなに人気なのかと僕は驚いた。
我々は建築学科の実演などを見て待ち時間を過ごした。そしてまたあの教室に戻った。
改めて注文をし席に着くと、ついにそれは登場した。
満を持しての「ラー汁+乾麺」がこれである。
市販の粉末鶏ガラスープを溶かしたお湯の中に、半分に折られた乾麺が茹でられることもなく沈んでいた。
我々は衝撃を受けた。これは現実かと疑ってしまうほどだった。
しかし僕の胸にはかすかな希望が残っていた。実はこの食べ方がうまいんだよ、というパターンなのかもしれない。チキンラーメンを茹でずにそのまま食べる的な、じゃがりこをお湯に浸してつぶして食べる的な、そういうアレンジ料理を紹介しようというテーマなのかもしれない。
麺を口に入れた瞬間、その淡い期待は打ち砕かれた。お湯にふやけて表面はねっとりとし、芯の部分は噛み切れないほど硬い。主役であるはずのスープ(ラー汁)さえ、なんとも言えない味だった。
鶏ガラを頼んだ僕はまだしも、塩味のM園くんはもっと悲惨だった。塩味のスープというのは案の定、塩を溶かしたお湯である。そこには塩味以外の何物もない。日本人が誇るうま味文化はどこへ姿を消してしまったのだろうか。ちなみに昆布からうま味成分の存在を発見したのは東京大学である。
本人たちに話を聞くと、彼らはただの飲みサークルで、五月祭にラーメンがあったら面白いかもと考えこのお店を出してしまったという。
なんとも言えぬ表情で「ラー汁+乾麺」を食す親子客の姿をみたときの僕の怒りはなかなかなものであった。
普段は穏やかなM園くんも店を出たあと激しい怒りをあらわにしていた。
本郷調査隊、そして彼らに出店許可を出した五月祭実行委員会を僕は許さない。
僕は次の日お腹を壊した。生の小麦はお腹を壊すことがあるので注意しよう。