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地理の達人と行く!横浜の旅|エッセイ

 僕の出身高校では、毎年春に遠足がある。進級直後のクラスの親睦が主な目的の行事である。1、2年生は県内、3年生は県外に行くのが恒例となっている。僕が3年生のときは、僕のクラスは横浜に行くことになっていた。

 遠足の数日前から、僕は他クラスの友人たちと、遠足に行くかどうかついて話し合いをしていた。
 我々にとって遠足は楽しくないものだった。特に1組のU島とS木はかなり嫌がっていた。いつの間にか目的地になった横浜を、仲良くもないクラスメートと散策する……これはとてもつらいことである。
 U島はかなり迷ったようだったが、頑張って行く決断をした。S木は行かないと宣言した。僕はそこまで嫌ではなかったので、休むつもりはなかった。

 当日の朝、僕はやはり遠足を休もうかと迷っていた。前日の夜、失恋に見舞われたからだ。LINEで「別れたいです」というメッセージが来た。
 だが、U島のクラスも横浜に行くと言っていた。U島と横浜のカラオケにこもって半日をやり過ごせばいい。そう思って、僕は朝5時ごろから支度をして集合場所に行った。

 クラスごとの貸切バスに乗ったあと、僕は別のバスで同じ場所へ向かっているはずのU島に、横浜に着いたらカラオケに行こうと連絡を入れた。30分ほどして返事が来た。

「S木と港で釣りをしている」

 こいつ、やりやがった。
 U島の弁明によると、彼が目を覚ましたときにはすでに集合に間に合う時刻を過ぎていたらしい。
 僕はバス車内で何人かのクラスメートに、カラオケに行かないかと声をかけたが、横浜まで来てカラオケに行くのはおかしいと言われた。

 バスは休憩のため海老名サービスエリアに停まった。降りるとき、O本くんがいた。O本くんとはいままで同じクラスになったとこはなかったが、僕もO本くんも地理の授業を取っていたので面識があった。
 O本くんは地理がとても得意で、地理の先生にあてにされるほどだった。O本くんは基本的に地理の授業中も静かにしているが、先生が生徒たちに質問をして誰もわからなかったときは、O本くんに改めて聞けばたいてい答えが返ってくる。
 僕は彼に、海老名サービスエリアには何か名物があるのか尋ねた。すると、
「上りにはないんだけどねぇ、下りにいいのがあるんだよ。帰りに買おう。」
と教えてくれた。上り下りまで把握しているのか。さすがである。
 僕はこのとき、O本くんについていけば横浜の旅もよいものになるのでないかと思った。きっと横浜のこともよく知っているに違いない。

 バスはみなとみらいに我々を降ろした。僕はO本くんと、T澤、K田と行動することになった。まず我々は移民資料館に入った。K田が行きたいと言ったのである。資料館はかなりつまらなかった。

 その後我々は中華街へ向かうため電車に乗った。
 移動中は「この駅はもともと倉庫だったから天井が特徴的なんだよ」などと通った駅のプチ情報をO本くんが教えてくれた。さすがである。

 そんなこんなで我々は中華街に到着した。
 中華街にはたくさんのお店があるので、普通はどこで食べるか迷ってしまう。しかし我々にはO本くんがいる。僕がおすすめのお店はあるか訊ねると、
「こっちにいいとこがあるんよ〜」
とスムーズに連れて行ってくれた。

 僕はその日やけになっていて辛いものが食べたかったので、担々麺を注文した。
 担々麺はかなり辛かった。というか辛さ以外の何物も感じられない。僕は5分の1ほど食べたところでまだこんなにある……と絶望した。K田が麻婆豆腐を食べてとても辛いと言ったのでそれを一口もらったが、担々麺はその3倍は辛い…。僕は口内の激しい痛みに耐えながら少しずつ食べ進めた。

 3分の2ほど食べたところで僕ははっとした。
 辛くない……
 どうやら何かが麻痺してしまったようだ。辛さを感じなくなった僕の味覚は、かき消されていた塩味やうま味をとらえた。うまい!うまいぞ!残りの3分の1はどんどん口に入った。
 ちなみにその中華料理店は広東料理が有名らしく、担々麺のような四川料理はあまりメジャーではない。僕はそのことを後で知ってなんとも言えない気分になった。

 食事中、僕のことを見かねたO本くんが自身の過去の失恋エピソードを話してくれた。詳しくは記さないが、ちゃんとオチもあって面白かった。励ましてくれてありがとう。

 店から出てすぐ、我々は天津甘栗屋台のお兄さんに声をかけられた。その甘栗はすごく高額で、少量なのに2000円くらいした。ぼったくりに近いもののようだ。我々はお兄さんを無視して歩き大通りに出た。そのとき、我々はT澤がいないことに気づいた。人混みでうまく進めていないのだろうか。
 数分その場で待っていると、T澤が姿を見せた。彼の手には天津甘栗の袋が提げられていた。
 こいつ、買いやがった……。我々3人は強く思った。ひとり捕まってしまい断れなかったのだろう。我々は彼に何も言うことができなかった。

 中華街の出口に向かって歩いていると、我々は地理の先生に遭遇した。どこで食べたのか聞かれたので店の名前を言うと、センスいいじゃんと言われた。O本くんのチョイスは地理の先生のお墨付きである。
 その後、地理の先生は「本物の隣に本物がいるんだよ」という謎の言葉を残しどこかへ行ってしまった。

 我々はその後帰りのバスに乗り、海老名サービスエリア(下り)で海老名メロンパンを無事購入し(そのときのO本くんのウキウキ具合はなかなかなものであった。買うスピードもすごかった)、高校へと帰った。

 U島からはボウズだったと連絡が来ていた。


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はねるくじら
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