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植物好きの視点から読み解く創作物の植物~第2回「野ばらの森の乙女たち」
ごきげんよう、はねおかです。
続きましたね、この企画。
ということで、今回も創作物から植物を見ていきたいと思います。
今回のお題は「野ばらの森の乙女たち」です。
こちらは全2巻と比較的読みやすいのでオススメです。
ちなみに、「野ばらの森の乙女たち」は「なかよし」に連載されていたんですが、「りぼん」では「ブルーフレンド」という百合漫画が連載されていて、「ニ大少女漫画雑誌が同時期に百合漫画を掲載した!」と話題になりました。
さて、早速野ばらの森の乙女たちに出てくる植物を見てみましょう。
・野ばらとは?
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こちらは1巻の表紙です。
横に伸びる小さな葉と無数の小さな花をつけるバラが描かれています。
![](https://assets.st-note.com/img/1737786520-zVp7PSWbjHUML6d4niDOraEm.jpg?width=1200)
2巻も同様ですね。
これは、ノイバラ(Rosa multiflora)で間違いないでしょう。
横に這う花枝、無数の小さな花をつける性質は、ノイバラの特徴をよく表しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1737786673-Yz1jrnpU7O5kg4vwqyWIxPtV.jpg?width=1200)
ツッコミを入れるなら、1巻の表紙で初美がノイバラの花を持ってますが、人物の大きさと対比すると、そこまで大きな花はつけません。
「野ばらの森の乙女たち」には、副題として「Maidens in the forest of wild roses」とあります。
「wild rose(ワイルドローズ)」というのは「野生のバラ」という意味で、バラ属にはおよそ150もの野生種があるといわれています。
ノイバラもその一つであり、「多数の花をつける」という性質が現代バラに受け継がれ、フロリバンダローズを産み出しました。
この作品は「野ばらが咲くお嬢様学校に入学する」というシーンから始まります。
![](https://assets.st-note.com/img/1737787471-0Vbqo62de3vYHTJM5fxz4plU.jpg?width=1200)
まぁ、ノイバラ(に限らずほとんどのバラ)は4月の終わりから5月に咲くものなので、入学式である4月の上旬にバラが咲くことはありません。
先程のノイバラの写真も5月4日に撮影したものですが、まだつぼみもあるので、やはりバラの開花シーズンというのは5月ですね。
比較的開花が早いのは、ロサ・キネンシス・スポンタネアとか、ロサ・バンクシア(モッコウバラ)ですね。それでも「4月の頭にぽつぽつ咲き始める」程度です。
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・「さくら」というキャラクターと「サクラ」の花言葉
主人公である初美の親友がさくらです。
表紙の青い髪の女の子ですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1737789573-eCozgSmpsawVkfIMNv3YPDyt.jpg?width=1200)
作者はあとがきで「さくらの名前はすんなりと決まった」的なことを言ってます。
サクラというのもバラ科の植物の名前です。これについては説明不要ですね。
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サクラの花言葉は「精神の美」だそうです。これには、一気に満開に咲き誇り、一気に舞い散る様を日本人の精神になぞらえています。
一方、野ばらの森の乙女たちの登場人物であるさくらは、極めて人間的なキャラクターになっています。
初美に近付こうとする泉に嫉妬したり、自分を受け入れてくれなかった初美から離れようとしたり、おおよそ「精神の美」とは遠いキャラクターです。
僕がnoteで散々言っているように、花言葉というのは1800年代にフランス人が考案したものが始まりとなっています。
フランスでのサクラの花言葉は「Nem’oubliez pas(私を忘れないで)」です。
こちらの意味を噛み締めてから、さくらというキャラクターを見てみると、サクラの名前を持つのも「そういうことか!」と思わせてくれます。
・野ばらの約束
そして、この作品では「野ばらの約束」という儀式があるそうです。
![](https://assets.st-note.com/img/1737790614-DQt4Grp1IR8f3sou05BHzC2a.jpg?width=1200)
「卒業してはなればなれになってもとくべつな二人でいられる」ということなので、卒業前に行うことになりますね。
卒業式は3月なので、その前のシーズンにはノイバラは咲きません。春にしか咲かない一季咲きという性質のバラなので、5月の開花時期を過ぎたら、来年まで花を咲かせることはありません。
ちなみに、この設定はほぼ死に設定で、作中誰かが「野ばらの約束」を交わすことはありません。
・薔薇の下、という意味
この漫画の始まりは、この言葉から始まります。
ねぇ約束よ
野ばらの下でのできごとは
だれにも いっては
いけないの―
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この「野ばらの下」という言葉は、作中度々登場します。
![](https://assets.st-note.com/img/1737791479-qjJ7BuaY8vhZGcr1bszCQNoF.jpg?width=1200)
この言葉、作者の造語などではなくて、昔からある慣用句なのです。
バラとヒトという生物の付き合いは古く、バラについて初めて言及されたのは紀元前5000年のシュメール文化だそうです。そうすると、約7000年ものお付き合いな訳です。
それだけ長く深い付き合いがあると、バラにまつわる慣用句というのも数多く生まれてきます。
「Every rose has it’s thorn」これは、キレイなバラにはトゲがある、という意味で、この慣用句はバラに関する慣用句の中では比較的有名でしょう。ちなみに、モッコウバラはトゲが全くありません。
「A rose is a rose is rose」バラはバラでバラである、という言葉だそうで。全ての物事は見たままであり、変えることはできない、という意味なんだとか。
「Stop and smell the roses」立ち止まってバラの香りを嗅ぐ、という言葉です。目標に向かって進むだけでなくその過程を楽しむ、とか、達成だけではなく過程こそ喜びである、とか、何でも楽しんで行おうとかいう意味だとか。
「 A rose by any other name would smell as sweet」これはシェイクスピアのロミオとジュリエットの一文で、この花がバラという名前ではなくてもその甘い香りに変わりなどない、という言葉ですね。本当の素晴らしいものというのは、それが持つ本質である、という意味になりますか。
「Life is not all roses」これは、人生楽ばかりではない、という意味だそうです。
そして、薔薇の下…「Under the rose」です。
ラテン語で「Sub rosa」と表現され、意味としては「秘密」という意味です。
これについては起源が色々ありまして。
例えば、ギリシャ神話において、アフロディーテの密会を沈黙の神ハルポクラテスに黙っていてくれることお願いする引き換えにバラを渡したという話があります。
また、太古の昔に、バラの木の下で軍事会議を行った軍が、戦いで勝利したからだ、という説もあります。
はたまた、ローマ時代には、天井にバラが描かれた部屋やバラが吊るされた部屋で見聞きしたことは他言無用である、というしきたりがあったからだ、という説もあります。
と、まぁ、起源こそ色々あれど、「薔薇の下」には「秘め事」という意味があるのです。
野ばらの下での秘め事―
これを知っていただいてからこの漫画を読むと、最終回の意味合いが理解できるでしょう。
・まとめ
野ばらの森の乙女たちは、2巻からは結構駆け足気味な印象を受けます(結局誰も「野ばらの約束」を交わしませんでしたし)が、2巻でまとめたにしては、ある程度うまくまとまったんじゃないかな、という気がしますね。
エンディングも、これはネタバレになるので言いませんけど、このキャラをくっつけたか!という面から見れば、結構ハッピーエンドですね。
サクラの花言葉と、野ばらの下という言葉の意味。
これを知っていただいてから、是非とも百合好きな人には読んでもらいたいですね。