マリみてSS「You and Me」

お題:細川可南子(2023/06/28)

季節は春。
「し、失礼を致しましたっ!」
このままでは腰が折れ曲がってしまうのではないかと心配になるほどに頭を下げる一年生。
「いいのいいの。言われ慣れてるから」
嫌味を一切感じさせない笑顔こそ、私のお姉さまの武器だ。
こんなこと、私には出来ない。
まだ一年生は、紅薔薇さまである福沢祐巳さまを知らないようで、私のことを姉だと思ったようで。
確かに、何度も誤解はされているけれど。
多分、リリアンでなら歴代最大の身長差姉妹かもしれない。
私がそんな事をぼんやりと考えていたら、いつの間にか一年生とお姉さまは打ち解けたのかお互いに笑い合っていた。
邪気を一切感じさせない態度こそ、私のお姉さまの武器だ。
「さ、行こうか、可南子」

季節は夏。
読書感想文の関連書籍を取ってあげるのが、私の仕事。
「こういうときは可南子が羨ましいわ」
上から二段目にある本は、お姉さまが背伸びをしてもギリギリ届かない。
「お褒めの言葉と受け取っておきますよ」
お姉さまが胸に抱えている本は三冊目。
なんでも、夏休みの課題に必要な本もあるとかで、まだあと数冊は欲しいらしい。
「次の本は…」
閲覧室を歩く。
「そういえばさ、可南子」
不意にお姉さまが歩みを止める。
「なんか、こんなこと前にもなかったっけ?」
デジャブ。
お姉さまは、去年、私が本を取ってあげたことなんて、忘れてしまっているようだ。
それでいい。
それがいい。
思い出せないほどの些細な思い出を、これからもずっと積み重ねていけば。
「そうでしたっけ?」
いつか、お姉さまも思い出してくれるだろう。

季節は秋。
「あなただけが咲いているね。ロサ・キネンシス」
お姉さまが温室で咲く真紅の薔薇を撫でる。
自分と同じ名前を持つその薔薇は。
その薔薇だけが繰り返し咲いている。
「お姉さまが教えてくれたわ。この薔薇だけが四季咲きなんだって」
お姉さまの瞳が、ここにいない祥子さまを探して。
一瞬だけ輝き。
一瞬だけ曇り。
そして、伏せる。
「私、お姉さまの妹になれて、幸せです」
あれだけ憎み、蔑み。
男のいる世界から去っただけの私に。
優しさを教えてくれた。
慈しみを教えてくれた。
お姉さまと出会っていなければ、私の学園生活は憎悪だけで過ごしていた。
と思う。
「何言ってるのよ」
しゃがんでいたお姉さまが立ち上がって振り向いた。
「まだもう少し、付き合ってもらうからね」
瞳が少し潤んだのを、私は見ないことにした。
きっと、この後には「卒業までは」と続くはずだった。
「ええ、そうですね」
私も瞳の端に輝くものを指で拭って答えた。

私達姉妹は、まだもう少し続いていく。
それまでは、一緒に過ごしていこう。
いつまでも、二人で。

マリみて二次創作好きなら、誰もが考えるIFルート、可南子エンドですね。
可南子の心を変えるのは、同じく男嫌いな祥子さまではなくって、やっぱり祐巳という存在じゃないかなと思って書きました。

執筆時BGM
西野カナ:You and Me


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