マリみてSS「Am I indifferent to you?」
お題:あなたを探しに(2022/04/27)
「あの、祐巳さま」
覚悟を、決めた。
「お返事は、デートが終わってからお願いしたいんですが」
これだけは、どうしても祐巳さまには知ってもらいたかったから。
「祐巳と向かい合うの、怖い?」
あの日、祥子お姉さまの口から発せられた言葉は、意外なものだった。
「怖いわよね。私も怖いもの」
それは、多分、偽らざる本心だったのだろう。
そして、それは、多分、私もそうだったのだろうから。
祥子お姉さまは、祐巳さまを曇りのない鏡だと言った。
本当の自分が。心が。
丸写しにされてしまうのは、怖い。
「それでも、一緒にいらっしゃるのはなぜなんですか」
恐怖から逃れたくなるのは、人間の種としての性だ。
そう、私の母のように。
「決まっているでしょう」
祥子お姉さまは、キッパリと言った。
「祐巳が好きだからよ」
その瞳は、曇のない鏡のように輝いていた。
バレインタインイベントの賞品であるデートの当日を迎えた。
そろそろ待ち合わせ場所であるM駅に着く。
(これでいいんだ)
予算の問題はクリアしている。時間だって問題ない。
いや、予算とか、時間とか。それらを無視してでも、今回はここに行きたかった。
否、行かなければならないのだ。
曇りのない鏡に向き合うために。
自分の心に向き合うために。
(お返事は、デートが終わってからお願いしたいんですが)
それ以来、祐巳さまとは一度もお会いしていない。
一週間ぶりにお会いした祐巳さまは、頭に無数のクエスチョンマークを浮かべている。
これからどこへ行くのだろう。
これから何が起こるのだろう。
行き先は分かる。
ただ、これから何が起こるのか。
それは瞳子にも分からない。
「そろそろ行きましょうか」
これから今、その答えを知るのだ。
全て話した。
私の過去。
私の心。
私の全て。
私のことを知ってほしい。
でもそれは、私のわがままなのではないだろうか。
そう思ったこともあった。
「瞳子ちゃん」
ふと気がつくと、バスはもうM駅に着いていた。
どうやら眠ってしまったようだ。
「祐巳さま、申し訳ありません。私の昔話なんかに」
付きあわせてしまって。
そう続くはずだった。
しかしその言葉は、祐巳さまの言葉にかき消されてしまった。
「ううん、いいよ」
祐巳さまは笑った。
「私は、瞳子ちゃんの過去、もっと知りたいよ」
(お前は幸せになっていいんだよ)
優お兄さまの言った言葉が蘇る。瞳子はフッと笑って、心の中で言い返した。
幸せになるも何も、私は祐巳さまを選んだのだ。
その時点で、もう―
ハナミズキ(アメリカヤマボウシ)
分類:ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属
原産:北米