マリみてSS「玉鬘」

お題:薔薇の花かんむり(2022/07/06)

誰にも譲れない居場所に。
私は立っている。
そう。
誰にも、だ。
私達が姉妹になるまで、多くの人に迷惑をかけた。
その一人ひとりの顔が浮かぶけれど。
その誰にだって、譲れない居場所。
首にかかるロザリオ。
それは瞳子と祐巳さまを繋ぐ、確かなモノ―
「ロザリオ、似合っていてよ」
瞳子が腰掛けているベンチに座るその人を、瞳子は見なくても分かる。
「ありがとうございます」
かつては本当に、この人の隣に立っていたかったのだ。
それが今は、同じ人を想い、その人を挟んで、立っている。
かつての私は、どう思うだろうか。
「瞳子ちゃんは、初『お姉さま』はもう済ませたのかしら?」
「は?」
「祐巳ったら、私のことを『お姉さま』と呼ぶのに時間がかかってね」
祥子お姉さまは笑って話す。
お二人が過ごした大切な時間。
それらを、噛みしめるように。優しく。
「瞳子ちゃん」
「はい」
「これからは、あなたはもうライバルなのよ」
祥子お姉さまは立ち上がる。
「祐巳の隣に立っていいのは、私だけよ」
「わ、私だって!」
私も思わず立ち上がる。
「お姉さまの隣に立っていいのは、私だけです」
これだけは。
譲れないんだ。
たとえこの世界中の、誰が相手だって。
「その意気よ」
祥子お姉さまは満足そうに微笑んだ。
「これから貴女達には、色々な事が起こるわ」
嬉しいこと。
悲しいこと。
楽しいこと。
理不尽なこと。
「でも、その時になったら、今の気持ちを思い出しなさい」
肩に温かい手が触れる。
「私のライバルは、世界で唯一人。あなただけなのよ、瞳子ちゃん」

「それじゃあ」
黒く長い髪を靡かせて。
「祐巳を頼むわね」
そう言って、祥子お姉さまは去っていった。
迷惑もかけた。
心配もさせた。
感謝もしている。
そして。
お姉さまを挟んでの。
ライバル。
(でも、あなたは、私のライバルにすらなってくれない)
今、私は、祥子お姉さまに相応しいライバルになれただろうか。
その答えは出ない。
ただ、この居場所だけは、祥子お姉さまにだって譲れない。
その御心のような、真っ直ぐな黒髪が消え去るまで、瞳子は頭を下げていた。

あとがき
玉鬘。昔の人の装飾品で、源氏物語の登場人物でもあるらしいです。
「美しい髪を持つ人への称賛の言葉」でもあるので、それを祥子さまへのイメージとしました。
祐巳をめぐるライバル、になれるでしょうかね。

玉鬘
分類:クライミング・ローズ
作出:河合伸志

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