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マリみてSS「Forget me not」

お題:「フレーム  オブ  マインド」より「四月のデジャヴ」(2022/05/04)

これは、贖罪だ。
「今日はね、古文の授業でね―」
決して許されることのない。
「あの先生、こんな駄洒落を言っていたわ。確か―」
私達は何度会話をしたのだろうか。
「数学のときは必ず小テストが入るから。あれには困ったわよ。だってね―」
時間は関係ない。
私達が出会ったのは、運命に違いないのだから。
「じゃあ、またね。明日も来るから―いちごさん」

私の目の前でいちごさんがトラックに轢かれてから、私は見舞いをし続けた。
赤の他人、と片付けたくなかった。
ただの数時間でも、私はいちごさんとの出会いに運命すら感じていた。
目の前の、起きる気配のないいちごさんを前にして、私ができることは、話しかけることしかなかった。
もし、あの事故がなかったら。
きっと、いちごさんと話し続けていただろうから。

結局、バスケット部には入らなかった。
否、入れなかった。
(いちごさんはいちごさん。お姉さまができたとしても、私たちの友情は変わらないでしょ?)
自分のこの言葉に嘘はない。
でも、なんだかそれは、いちごさんを置いていってしまうような気がして。
それに、お姉さまを探すのは、いちごさんが目を覚ましてからだって遅くはないはずだから。

今日もいちごさんは目を覚まさなかった。
私は看護士さんに一礼し、病室を去った。
大人は子供に対して鈍感である。
看護士の「記憶が戻らないかもしれない」などというひそひそ話を何度も聞いた。
それでもいい。
もし、いちごさんが目覚めた時。
いちごさんが私を忘れていたっていい。
私がいちごさんのことを、忘れてさえいなければ。
唇を噛む。
願掛けなんてしたことなかったけど、私は神様に祈った。
(神様、私の親友とらないでよ―)

あとがき
タイトルは「私を忘れないで」という意味で、写真のシノグロッサム(英名:Chinese forget-me-not)から拝借しました。
Forget me notだとワスレナグサですが、ワスレナグサはムラサキ科ワスレナグサ属の植物で、シノグロッサムはムラサキ科オオルリソウ属の植物です。
少し違いますね。
本編では目を覚まさないいちごさんに寄り添っていましたが、無事ハッピーエンドとなりまして。
よきかなよきかな。

シノグロッサム(Chinese forget-me-not)
分類:ムラサキ科オオルリソウ属

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