マリみてSS「Wishing」

お題:卒業(2022/03/16)

出会いがあるから、別れがある。それは必然のことである。
お世話になったお姉さまには感謝してもしきれないけれど。
しかしだな、と蓉子は思った。このカラリとした雰囲気はなんなのだろうか、と。
お姉さまからはなんの餞別もなかった。それは「今更蓉子に言わなくてもキチンと紅薔薇さまの名を受け継いでくれるでしょう」という信頼なのかもしれないけれど、それにしたってなにかあってもいいのではないのだろうか。
例えば、ほら。聖のように。
見ているこっちが心配になってしまうほどの心細い目をした聖に、白薔薇さまはなにか言葉をかけていた。

いつだっただろうか。かつて白薔薇さまは、聖のことをガラス細工に喩えていた。もしそのガラス細工が壊れたら、誰が破片を拾い集めてくれるのだ、と。
今その繊細なガラス細工を、見守ることができなくなってしまう白薔薇さまの心中はいかがなものか。
私だったら、耐えられない。
しかしあの時の聖には、心の傷を癒やす時間が必要だった。だから、これはもう、仕方のないことなのだ。
「少し、話しましょうか」
私の視線に気付いた白薔薇さまが言う。
それは、私が待っていた言葉かもしれなかった。

私と白薔薇さまは、銀杏並木を並んで歩いた。
言いたいことはあるような、でもそれを言葉にするのは難しくて、蓉子はただ黙っていた。
私は、このあとの言葉を知っている。
あのクリスマスの夜から、その言葉を待っているのだ。

不意に、白薔薇さまが立ち止まる。
「蓉子ちゃん」
白薔薇さまは、目を細めて小さく言った。
「聖のことをよろしくね」
「…はい」
「可愛げがないけれど、あれでも私にとってはかけがえのない妹なのよ」
確かに可愛げのない妹だと、蓉子は苦笑した。

蓉子は、今この場にいない一人の生徒を思い浮かべていた。
聖にはもっと、誰かと関わりを持ってほしい。
多分きっと、それは白薔薇さまの願いでもあるはずだった。

あとがき
ウィッシング。「願います」という意味の英語だそうで。
「片手だけつないで」では、聖さまと志摩子さんのために大活躍の蓉子さまですが、こういう前白薔薇さまの遺言があっての行動だったのかな?と思って書きました。

ウィッシング
分類:切り花系品種
作出:今井ナーセリー

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