見出し画像

マリみてSS「Rayon de soleil」

お題:支倉令(2023/02/08)

なぜ、あの人はいつもつまらなそうにしているんだろう。
全てを見終えてしまったかのような顔。
達観。
ある日、私は意を決して黄薔薇さまに尋ねたことがあった。
「江利子はね、なんでも出来てしまうから面白くないのよ」
「はあ…」
「自分のこと。相手のこと。限界。終わり。その全てが分かってしまったら、人生なんて面白くもないでしょう」
私が支倉さんを選んだ理由?そうね。私はあなたのことを、まだほとんど知らないけれど、あなたといると、楽しそうだから―
そう言って、お姉さまは私を妹にしたのだった。
「そういう意味では、令ちゃんには期待しているわよ」
黄薔薇さまはそう言うと、私の肩を叩いて去って行った。
私はお姉さまのことはほとんど知らないけれど、そんな人をどうやって楽しませたらいいのだろうか。
折角、意を決して姉妹になったのに。
私達姉妹の間には、差し込む明るい光がないのである。

冬になった。
山百合会では、毎年この時期にクリスマス会を催すのだという。
「去年の出来合いのお菓子も美味しかったけど、今年は誰かのお手製のものが食べたいわね?」
「そうそう。愛情がこもったものが食べたいわあ」
口々に「お手製」「愛情」を口にする薔薇さまたち。
時折、この人たちはリリアンを導く薔薇さまの名を放棄するかのような行動を取る。
「お姉さま、文句を言うのはおやめください」
こういうときに窘めるのは紅薔薇のつぼみ、水野蓉子さま。
「じゃあ蓉子、あなたが作りなさい」
「お言葉ですがお姉さま、私も一応なにかしらの一つは作れますが、市販のものに及ぶようなものはとても…」
「こういうのは新人の役目。祥子ちゃんに作らせてみたら?」
「黄薔薇さま、小笠原グループの孫娘が作れるわけ無いでしょう」
薔薇さま方は祥子さんのことをひとしきりネタにしたあと、また「お手製」「愛情」と口にし始めた。
「あのー…」
私は恐る恐る手を挙げた。
「私、作りましょうか?」
山百合会全員の「は?」という表情。
「令ちゃん、作れるの?」
「従姉妹がいまして、彼女によく作ってあげてて…私の趣味なんです」
おおっ、と歓声が上がる。
「この人達の無理難題に付き合わなくていいのよ?」と小声で耳打ちする水野蓉子さま。
「いえ、軽いお菓子…クッキーとか、それくらいでしたら作れますし」
令ちゃんの愛情たっぷり手作りお菓子、と大合唱を始める薔薇さまたち。
それを聞いているのかいないのか。いつもの達観した顔のお姉さまに、私は言った。
「お姉さま、お手伝い願えませんか」
「…えっ?」
「私一人では作る量も限界があります。誰かに手伝っていただきたいです」
嘘だ。別に一人だって作れる。
ただ、口実が欲しかった。
「分からない事はお教えします。出来ないところは私がフォローします」
お菓子作りじゃなくてもいい。裁縫でも、なんだっていい。
私が知っていることならば、なんでもよかった。
お姉さまには、挑戦しないまま、自分の限界を勝手に定めてほしくなかった。
私達は、楽しい学園生活を送るために、姉妹になったのだから。
「そうね」
お姉さまは柔らかく微笑んだ。
「それは、楽しそうね」
お姉さまのこの微笑みで、私達姉妹の間に、陽の光が差し込んだ気がした。

あとかき
レヨン・ドゥ・ソレイユ。フランス語で、直訳すると「太陽光線」ですが、ここは「太陽の差し込む光」としましょうか。
最初が分かり辛いですね。あくまで一年生の令さまの視点です。
余談ですが、黄色系バラというのは貧弱な品種とされていましたが、このレヨン・ドゥ・ソレイユはADR(共通ドイツバラ新品種試験)という、3年間無農薬栽培された上でバラを品評するという、世界で一番厳しいとされるバラのコンクールを受賞した、非常に強健な品種です。

レヨン・ドゥ・ソレイユ
系統:フロリバンダローズ
作出:メイアン(仏)

いいなと思ったら応援しよう!