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マリみてSS「空を凌ぐ」

お題:内藤笙子(2023/06/21)

季節は夏。
私があの人を追いかけて写真部に入部して、それなりに経っていた。
とはいえ。
「笙子さん、夏休み前にお姉さまとツーショット写真を撮ってもらいたいのだけど…」
はいはい。来ました。
「蔦子さまに、そうかけあってもらえないかしら」
私は、蔦子さまの連絡係と思われているようで。
「伝えておくわ」
私だって、一応カメラは扱えるのに。
なんて答える気にもならない。
相手は入部したときから、写真部のエースだったという蔦子さま。
相手が悪い。
とりあえず、頭の中のメモ帳に記入だけしておいた。

「夏休みを前に、各自作品を発表してもらいます」
なんて話が出たのは先々週だっただろうか。
打倒、武嶋蔦子を掲げる先輩方は、写真の選定に余念がない。
「蔦子ちゃんには期待しているからね」
「なんてったって、蔦子さんの秘蔵っ子なんですからね」
写真部の先輩方は、微笑ましい顔でそんな事を言ってくる。
武嶋蔦子とくっついて歩いている私は、どうやらその一派と思われているようで。
(針のむしろだぁ…)
いいようにオモチャにされて、からかわれているだけなのは分かっているけれど。
そのプレッシャーたるや。
ああ、胃が痛くなりそう。

蔦子さまは、私が何か聞けば教えてくれる。
けど。
ご自分からは何も言ってはくれない。
勝手に追いかけているだけだから、そりゃあそうなんだけど。
蔦子さまは、誰かと雑談をしたり、時折遠くを眺めたりしていて。
それでもカメラは手放さず。
気の向くままに、シャッターを切っていた。
技を盗む、なんて言葉があるけれど。
蔦子さまを追いかけているだけで、カメラの腕が上がるなんて思っちゃいない。

自分は、なんだろう。
写真を撮る楽しさは、少しは分かってきたような気がするけれど。
去年はフィルムケースにタケシマツタコと書いて、それがひと悶着になったけど。
あの時から、何が変わっただろうか。
ピンボケだらけのあの時よりも、腕は上がった、と思う。
でも。
それ以外に、何か変わったわけでもなくて。
私は、武嶋蔦子の追っかけで。
武嶋蔦子の秘蔵っ子で。
それで。
それで?
(そう思うってことは…)
そう思うってことは、それ以上になりたい気持ちの現われ。
だから。
カメラの腕だって上げたいし。
いつかは蔦子さまを唸らせる一枚を撮影したい気もあるし。
蔦子さまとの仲だって。
(でも、それって…)
例えば、姉妹とか。
(私と蔦子さまが、姉妹だなんて…)
あの時、フィルムケースに名前を書いた、あのドキドキが蘇る。
とりあえず、今は。
その気持は飲み込んで。
私は、空を見上げた。

空を凌ぐ。これは、ノウゼンカズラの漢名である凌霄花(空を凌ぐ花、という意味)から採用しました。
ノウゼンカズラは、他の植物に絡んで育つため、中国では愛の象徴とされているそうです。
笙子と蔦子さんの仲は…どうなるんでしょうね(笑)

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