マリみてSS「Explorer」

お題:「大きな扉  小さな鍵」より「ハートの鍵穴」(2022/04/07)

一体なにがいけなかったのだろうか。
きっとそれは、ボタンの掛け違いのような。
どこかの些細なほつれが呼び水になっていて。
でもそれは、今はもうどうしようもできようがない。
過ぎたことは、過ぎたことである。
だから。
だから―

(そう切り替えられれば、一番楽なんだけどね)
帰り道。
珍しく一人で帰ることとなった。
それ自体は問題ではないのだが、一人になるとこうして嫌な気持ちも湧いてしまうのだ。
(お姉さまは―)
お姉さまとは何度もぶつかった。それでもお互い乗り越えてきた。
だから、誰でも悩むことなはずなのだ。
お姉さまのお姉さまである蓉子さまも。
そのまたお姉さまも。きっと。
姉妹をもつものならば、きっと悩み、苦しみ、乗り越えてきたはずなのだ。
だから、自分と瞳子ちゃんとのことは、自分で悩み、自分で乗り越えるしかないのだ。
(それにしたって)
昨日の瞳子ちゃんは冷静ではなかった。
だから、時間が必要だと思った。
その判断に間違いはなかった、と思う。
(突き放しすぎちゃったかな…)
あの時瞳子ちゃんの口から出た「近付かないで」という言葉は、物理的な距離だけではないと思った。
私はきっと、気付かぬうちに瞳子ちゃんに踏み込んでしまったのだろう。

噂をすれば、と言うが。
前の交差点を渡ろうといていたのは、松平瞳子その人だった。
声をかけたい。
距離を縮めたい。
でもそれは、私の一方的な感情でしかない。
私はどうしたい?
瞳子ちゃんはどうしてほしい?
相反する感情は、私の頭から思考を奪っていく。

青い信号が点滅する。
瞳子ちゃんは渡らずに立ち止まった。
私は、反射的に走り出した。
瞳子ちゃんの手を取る。
ばさばさとスカートが音を立てても構わなかった。
セーラーカラーが翻っても構わなかった。
はしたないと言われても構わなかった。
ただ。
瞳子ちゃんには、立ち止まってほしくなかった。
手を引いて走る。
心臓の鼓動が高まる。
呼吸が荒くなる。
その一瞬も束の間で。
信号が赤に変わる。
息を切らす私達の後ろを、走り出す自動車の音が鳴り響く。

たとえ誰に何と言われたって。
たとえ姉妹じゃなくたって。
立ち止まっている瞳子ちゃんの。
その先を、見てみたいんだ。

あとがき
エクスプローラー。「探検家」という意味です。
瞳子って、潜在的には「自分を引っ張ってくれる存在」を求めているような気がするんですよね。
という思いから書きました。


エクスプローラー
分類:切り花系品種

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