バラの歴史から見たマリア様がみてる「マリア様がみてる」と「ノイバラ」
ごきげんよう、はねおかです。
これまではマリみての中で出てきたバラ「ロサ・キネンシス」や「ロサ・カニーナ」などから、マリみての登場人物との共通点を探してきました。
先日、僕も参加しているマリみてワンドロのお題が変わりました。
作品タイトルになったんです。
今でも僕はバラの品種名からSSを書いてきましたが、その前に考えていたのがこの企画。
バラからマリみてをもう少し深堀りできないか、と思ったのです。
とはいえ、お題が発表された時点では、まだバラの開花シーズンには程遠い…
この度、バラの開花シーズンに伴い、写真も撮影できたので記事にしたいと想います。
今回は「マリア様がみてる」と「ノイバラ」です。
いわゆる「無印」ですね。
さて、ここでノイバラというバラをご紹介しましょう。
ノイバラ(学名:Rosa multiflora)
分類:原種バラ
樹形:半つる性
四季咲き性:一季咲き
花色:白一重
日本に自生するバラで、沖縄以外での野山では自生しているノイバラを見ることが出来ます。
野生種故に非常に強健なバラで、棘もあり厄介者扱いされることもしばしば。
逆に、その強健さに着目されて、接ぎ木用の台木として利用されます。
このノイバラ、乾燥した根を薬剤として利用していたそうで。
昭和30年頃まで岩手や徳島で採集されていたとか。
日本の古典文学に登場する”薔薇”とは、基本的に中国から渡来したコウシンバラ(ロサ・キネンシス)を指すと考えられています。
ちなみに、”ばら”とは読まず、”そうび”と読むそうです。
ノイバラが花としての注目を集めるのは江戸時代。
この頃には里山の風景としてのノイバラが、一茶や蕪村によって俳句に詠まれています。
さて、このノイバラ。
実はバラ界ににおいては、非常に重要なバラなのです。
1804年、英国東インド会社のトーマス・エヴァンスという人が、中国産のノイバラの園芸品種をヨーロッパに紹介したという記録があるそうです。
日本産のノイバラも、1862年にフランスに種子が渡ったそうです。
大航海時代、世界中の珍しい物品が流通した時代。
日本の里山に咲くノイバラが、なぜ注目されたのでしょうか?
バラは大きく分けると、木立性かつる性かで分けられます。
中間の半つる性もありますが、ここでは割愛します。
ヨーロッパ原産のつるバラはいくつか挙げられますが、枝先に一つの花しかつけないのです。
ロサ・アルウェンシスなどですね。
対して、ノイバラは一つの枝先に無数の花をつけるバラです。
無数の花と蕾があるのが分かりますね。
ヨーロッパでは、コンクリートなどでむき出しの壁を嫌うそうです。
そこで、ヨーロッパでは、つる性バラで壁を埋めるニーズがあったと推察されます。
元々ヨーロッパにあったつるバラは、枝先に花をつけるタイプです。
しかし、人の背丈を超える高さまで伸びるつる性バラでは、高所で開花したところで直接鑑賞ができません。
そこで、小さくとも無数の花をつけることで人目を引くノイバラがもたらされたのです。
しなやかな花枝も、しだれて咲く花を人間が鑑賞できる高さにまで下げても折れないという性質がありますからね。
この多数の花をつけるという性質は、今でもフロリバンダローズなどに受け継がれています。
バラの品種改良の歴史において、この性質は「後世に残すべき性質」であるということの証明です。
こちらはフロリバンダローズの「ポラリス・アルファ」
いくつもの花をつけていますね。
日本ではあまりパッとしないノイバラ。
しかしその魅力を見出されて活躍。
これ、マリみてにおいての、祐巳と似ていませんか?
山百合会メンバー(と蔦子さん)以外からの祐巳の評価は、自他共にあまり高いものではありません。
反して、山百合会メンバーや、観察眼の鋭い静さまからの評価は上々です。
しなやかな花枝、多数の花をつける性質が見出され、ヨーロッパに渡り品種改良に取り入れられたノイバラ。
自己評価こそ低いものの、当人の魅力を見出されてリリアン女学園を代表する紅薔薇さまとなった祐巳。
この両者に、似たような部分を感じずにはいられません。
最後に、このバラを紹介したいと思います。
サクライバラ(Rosa × uchiyamana)
分類:原種交雑種
樹形:半つる性
四季咲き性:返り咲き性
花色:白にピンクの覆輪の一重咲き
ノイバラとコウシンバラ(ロサ・キネンシス)の自然交雑種と考えられているバラです。
カイドウバラとも呼ばれています。
日本は仏教の国ですから、棘のある植物というのは嫌われる傾向にあります。
今でも仏花に棘のある花は使わない、というマナーがありますね。
そんな中でもこのサクライバラは、日本人が大好きなサクラに似た花だからか、昔から残っているバラです。
ノイバラもキネンシスも、バラの品種改良においては多大な貢献をしたバラです。
アメリカの育種家シェファードは、現代の園芸バラの作出に用いられた野生種を8種としています。
ロサ・キネンシス、ノイバラ、テリハノイバラ、ロサ・オドラータ、ハマナス、ロサ・フェティダ、ロサ・モスカータ、ダマスク・ローズ、の8種です。
このうち、ロサ・フェティダ、ロサ・モスカータ、ダマスク・ローズを除く5種は、アジアのバラなのです。
現代バラは、ヨーロッパのバラにアジアのバラが加わったことで完成したバラとも言えるでしょう。
地味だけど、大きな世界で花開いたノイバラに、福沢祐巳を見出している今日このごろであります。
参考文献
バラの誕生(大場秀章著:中公新書)
別冊 NHK 趣味の園芸 バラ大図鑑(NHK出版)