バラの歴史からみたマリア様がみてる番外編「祥子さまはなぜ桜が嫌いなのか」
ごきげんよう、はねおかです。
今回は僕が敬愛してやまない水野蓉子さま―の妹である小笠原祥子さまにスポットを当ててみたいと思います。
祥子さまは、お嬢様キャラクターのテンプレートであるように、好き嫌いの激しいキャラクターとなっています。
好き嫌いができるというのは、好き嫌いが許される状況にいる人物である、という記号です。(余談ですが、僕の実家は農家だったので、とりわけ野菜の好き嫌いは許されませんでした)
では、祥子さまの嗜好について調べてみましょう。
・サクラ、ギンナン
ではまず、食用品としてのサクラに注目してみましょう。
桜湯とは、「お茶を濁す」という言葉を嫌って、お茶の代わりに提供されるものです。これには塩漬けにしたサクラの花を用います。
このサクラにはカンザンという品種のサクラが使われます。カンザンはオオシマザクラを元にしたサクラで、花弁数が20~50の八重咲きのサクラです。
桜湯には香り成分としてサクラの芳香族化合物「クマリン」が含まれます。クマリンにはバニラに似た芳香と、苦み成分が含まれます。
作中では「あんパンの上にも乗っている」と志摩子さんが指摘しています。サクラがあんパンの上に乗っているものは「桜あんぱん」と呼ばれるもので、木村屋總本店のものにはヤエザクラの塩漬けが用いられます。ヤエザクラはオオシマザクラとヤエザクラなどの雑種です。
私たち庶民が触れるサクラの食べ物といえば、桜餅が挙げられるのではないでしょうか。
桜餅に使われる葉は毛のないオオシマザクラのものが用いられ、桜餅の独特な芳香はサクラの葉のクマリンのものです。
これらの飲食品から、祥子さまが桜が嫌いな理由は、サクラの葉や花に含まれる香り成分「クマリン」の苦みにある、と言えるのではないでしょうか。
続いては銀杏です。
イチョウはイチョウ科イチョウ属に属する落葉樹です。そして、イチョウの種子をギンナンと呼びます。
我々が食べるギンナンとは種の中にある胚乳の部分です。
これには苦味成分であるアルカロイドが含まれています。
子供が食べすぎると中毒症状を起こすということでも知られていますね。
・オリーブ、キャラウェイ
これは、黄薔薇革命で、お姉様らしく祐巳にサンドイッチを奢った後のシーンです。せっかくお姉様らしさを出したのに、これでは従者ですね(笑)
ではまずオリーブですが、オリーブとはモクセイ科オリーブ属の樹木で、主に実を油や生食用にするために栽培されます。
オリーブの果実には、苦味成分であるオレウロペインという成分が含まれています。
これにもまた苦み成分が出てきました。
続いてキャラウェイです。キャラウェイはセリ科ヒメウイキョウ属の植物で、主に種子をキャラウェイシードとして用います。
きっと祐巳が食べたサンドイッチのパンにも使われていたことでしょう。
キャラウェイの香り成分は主にカルボンとリモネンで、噛むとほのかな苦味が感じられるそうです。
・キュウリのピクルス
ピクルスは、酢漬けにした野菜や果実の総称です。酸味を好むイギリスでは、多種多様なピクルスがあるそうです。
ちなみに、某大手ハンバーガーショップの調理のアルバイト経験がある僕からお伝えすると、申告すればハンバーガーのピクルス抜きの注文ができます。
このエピソードから、祥子さまは酸味のあるものもお嫌いであることが分かります。ケチャップは平気なんですかね?
・梅干し、アスパラガス
梅干しはバラ科の植物であるウメの果実を塩漬け、ないし酢漬けにしたものを天日干しした保存食で、江戸時代に頃には現在の製法とほぼ同じものが出回っていたそうです。
さきほどのピクルスの酸味が酢漬けの酢に由来するのに対して、梅干しの酸味はウメの果実に含まれるクエン酸が主となります。
我々日本人にとっての酸味の代表格ですね。
クエン酸といえばレモンも挙げられますが、祥子さまはレモンティーもお嫌いなんでしょうか?
アスパラガスはキジカクシ科クサスギカズラ属の植物で、天日に当てないで育てた通称ホワイトアスパラガスには苦味成分としてサポニンが含まれています。
また、鮮度が落ちるとグリーンアスパラガスでも苦みが発生すると言われています。
作中ではアスパラガスとチーズのベーコン巻きを召し上がっていましたが、こういう料理では通常グリーンアスパラガスを使うと思うので、祥子さまが召し上がったのもグリーンアスパラガスでしょう。
とすると、祥子さまは微かな苦味成分を敏感に感じ取った、ということになりますね。
・味覚
味覚とは、舌にある味蕾が感じ取るもので、3~4歳がピークとされ、10歳程度で味覚の基礎が出来上がるそうです。
幼少期に食べられなかったピーマンなどの苦みを含む食品が、大人になると食べられるようになった、という経験が「味覚が衰えたから」という話は聞いたことがある方もいるでしょう。
僕は当初「祥子さまは苦みや酸味を嫌う子供舌」だと思っていましたが、どうやらその認識は改めなければならないでしょう。
祥子さまは、お嬢さま故に幼少期から幅広い食育を受けた結果、敏感な舌を持ち、好き嫌いが許された結果として今の小笠原祥子の味覚がある、と言えるのではないでしょうか?
それは、甘やかされた結果でもあり、愛情の裏返しでもあるのだ―と。
過不足なく食事を与えられ、それを叱られることなく過ごしてきた小笠原祥子というキャラクターを、少し可哀想に思えてしまう気持ちもなくはない―
そう思う今日このごろです。